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小説
その5
 狭いお風呂だと、しっかり肩まで浸かるには、自分の前に相手を座らせる体制しかない。
 三成はお風呂の端っこで、蹲る形の幸村の二の腕を引っ張って引き寄せる。
「えええっ。」引っ張られた幸村は、三成の上に乗り上げる様な姿勢になってしまい、顔を真っ赤にしている。
「もっとちゃんと肩まで浸かれ。」
 三成は、引かれた拍子に抱きついてきた幸村をひっくり返して、肩をぐっとお湯へ浸からせようとする。
「え…でも、これだと…。」三成にしっかりと体重をかけて座ってしまう形になる。
「気にするな。」
「う…。」
 幸村はおずおずと、三成の太腿らへんに座って、肩までお湯につかった。背中も足も素肌通しがしっかりと触れ合ってしまって、幸村は体を固まらせる。
 三成は三成で、内心、手を置く位置をどこにしようかとためらってしまっていた。幸村の胸あたりに掌がいきそうになって、慌てて、バスタブのへりを掴んだ。
「…。」
「あ…、髪が湯に…。」
 幸村は髪先がお湯に付いていた後ろ髪を持ち上げて、頭の天辺でくるりと巻き上げる。
「っ!」
後ろから見ると、綺麗な白いうなじが目に入って、三成はクッと息を飲む。
…やばい、なんか、今、かなりむらむらしそうに…。男の幸村相手に、こんなことって、こんなことって…!!!!!
三成は無言で、湯からザバッと勢いよく出てしまった。
「え、先輩?」
 一気にお湯かさが減り、波打つお湯の中で、後ろを振り返った幸村はえ?え?と驚いた顔をしている。タオルで前を隠し、三成は椅子に座ると、シャンプーをポンプから手に取り始める。
「私は体を洗う。幸村は、肩までゆっくり浸かって温まれよ。」
「は、はい。」幸村はチラッと湯気の向こう、三成の方を見る。
 細いけれどちゃんと筋肉があって、手足が長くて、均整の取れた体だった。
 その綺麗な体を、ほうと見惚れてしまっていたことに気付き、焦った幸村はぶくぶくと湯船に沈んでしまう。
「ほら、そろそろ交代だ。」
「う…、はい…。」
 洗い終えた三成が入ってきたので、お湯に浸かっていた幸村は慌てて立ち上がる。あまり三成の体を至近距離で見ないようにと、目線を変な方向へ向けていたために、バスタブの中で不安定になって滑りそうになった。
「うわっ!」
 瞬間、幸村の腰辺りを、三成が両手でしっかりと支える。
「馬鹿っ。」
「あ、有難うございます…。」
 全裸の状態で、あのさっき見ていた綺麗な三成の体と、胸とか腕が触れ合ってしまったかと思うと、恥ずかしくてしょうがない。純情すぎる幸村は、顔を真っ赤にして、尻すぼみにお礼を言った。
 気を取り直して、幸村は椅子に座ると、ポンプを数回押して液を出し、髪の毛を泡立て始めて…。
「あ、これ、リンスでござった…。」
 と、リンスを一旦お湯で流して、改めて、シャンプーを始める。
 一連の動作を見て、コントかと内心思っている三成をよそに。
「うわっ、目に入ったでござる。うー、お湯、お湯…。」
 今度は、目にしみる〜と、両目を閉じている幸村は手探りで風呂桶を探している。風呂桶の中身は、とりあえず今リンスを流したせいで、空だ。
「…。」
 その右往左往している姿を、バスタブの中で、目を眇めて眺めていた三成は。
「うわっ…。」
体を伸ばし取った風呂桶で、ザバッと幸村の頭からお湯をかけてしまう。
「もう、もたもたするな。」
「ごめんなさい…、え?」
 そして、三成は、バスタブから洗い場へ出て、幸村の背後に座る。
「貴様を待っていたらのぼせてしまう。私が手伝ってやるから。」
「っわっ。」
 ばしゃっばしゃと予告も無しに頭と肩へ数回お湯をかけて、シャンプーの泡が無くなったことを確認したら、ボディソープを掌で器用に泡立ててゆく。
「髪の毛、持て。」
 そう指示して、そのまま作った泡を露わになった首筋、耳の裏へ塗りたくってゆく。
「…っぁ…。」
 前屈みになった幸村が、小さく、小さく、密かに息を吐く。
 背骨辺りにあった三成の石鹸まみれの手が、敏感な胸元へとするりと前へ滑る。
「あ…っ!そっれ…!」
 浴室で、幸村の声が反響する。
「馬鹿、変な声を出すなっ。私は、洗ってるだけだろうが!」
 聞いていられないほどの甘い声に、三成も顔を真っ赤にして、さっさと終わらそうと、くるくると円を描いて、胸元や腰回りを泡だらけにしてゆくけれど。
「だって…あのっ、やっ…くう…んんっ。」
 びくびくっと体を震わせながら、顔も体も火照らせた幸村は一生懸命下唇を噛んで声を堪える。下を見ると、どうやら止められないところまで来てしまっているみたいだった。
「…もう、しょうがないなっ。」
 チッと舌打ちをすると、わざと三成は、下へ腕を伸ばして、固くなってきていた幸村自身を掴んで刺激を入れ始める。
「やっ、なにっっ!あっ…ふああっ…。」
 泡だらけの手で、わざと感じやすそうな、裏筋や、袋の部分をやわやわと微妙な力加減で揉む。
「うあ…そ、そんなとこっ…ひあっ。」
「馬鹿!はやくイッてしまえ。」
 幸村のこの嬌声は、耳に毒過ぎる、これでは自分まで流されそうだ。
 ムキになったように、三成の左手は石鹸が絡んだ指先で、乳首を摩って、強く形が変わるくらいきゅっと摘まみ上げた。
「ああっ!…んあっ、せんぱ、いっ、だ、めでっ…ふあっ…。」
 その鋭い刺激に、とうとう声が我慢できなくなった幸村の、喉の奥から引きつるような甘い喘ぎ声が切なく浴室へ大きく響く。
 それと比例して、くちゅくちゅと下を摩る指の動きも早くなってゆく。
 すぐ傍にある、紅くぽってりした唇が、すごく、美味しそうに見えて。
 弾力のある唇の感触を確かめて、思いっきり吸って、舌を絡ませてみたくなる衝動にかられるけれど、三成は、頭を振ってなんとか我慢する。そこまでしてしまうと、体を洗っているという大義名分じゃ無くなってしまうから。
「あっ!…んんあっ…ふあっ。」
 眉間に皺を寄せて、眼の端を真っ赤にして、幸村は強すぎる快感に身を任せている。
「せ、せんぱっ…、んあっ…、あっ、くうっ…。」
 目をトロンとさせている幸村は、無意識にペロッと赤い舌を出して、唇を舐める。その姿があまりに煽情的で。
「…くそっっ。」
 とうとう我慢が出来なくなった三成は、幸村を上へ向かせて、気道を塞ぐようにキスをする。欲望のまま、乱暴に舌を差し入れて、口内を舐めつくす。
「んんっ。ふぁ…ふんん…んぁ…んん。」
 幸村は涙目になりながら、一生懸命、ちゅっちゅっと音を立てつつ、慣れない動きで舌を絡ませてくる。
 キスをしながら、くびれた腰を撫でまわして、完全に立ち上がってしまっている乳首を、強弱をつけて揉んでみる。
「あっも、だ…、だめっ…あっ…でっ…っはなっしっ…あああっ。」
 限界が近くなってきているのか、三成の拘束から逃げようと、腰を揺らめかすけれど。
 三成は、そのくびれた細い腰を二の腕で押さえつけて、ますます追い上げていった。
「あっっ、ひあああっ!」
感極まった声を出した幸村は、ビクンビクンと麻痺したように数回体を震わせて、くったりと自分の腕の中へ倒れ込んできた。
「…おい、まさか、失神…。」
 目を閉じて眠ってしまった幸村を見て。
 そして、自分の股間の惨状を見て、ため息をつく。
「なんで、私まで…たって…くそっ。」





☆☆☆


 三成はいつも通り机に座り、分厚い問題集を開いてみたけれど、さっきから1時間も経つのに、全然はかどらなくて、がっくりと肩を落とす。
 いつも通りではないのは、自分のベッドを占領して、すやすや幸せそうに寝息を立てている幸村。それを横目で見ながら、クルリとペンを一度手の中で回して、今日何度目かのため息を吐く。
 今日初めて会った彼に、調子を狂わせられているということは、重々分かっている。
 けれど、それが全然嫌じゃなくて。
 だから、きっと、こんなに困惑しているんだろう。
 シャーペンを下唇で、コツンとノックする。
「もう、こんな日は寝てしまおう。」
 やる気も出ないのに、勉強しても身になるはずもない。
 ベッドに近づいた三成は、息を殺して幸村の隣に滑り込んで、そっと彼の頭の裏に腕を回して、自分より一回り小さい彼を、抱き枕みたくぎゅっと抱きしめてみる。
 触れ合っていると、温かくて気持ちいい。そして、それだけで、何故か、ドキドキと心臓が早鐘のように鳴り始める。
「んん…。」
 むずがった幸村は寝返りを打って、こっちにすり寄ってきた。
 何だ!この可愛い生き物は!と、三成は内心、叫びたくなるけれど。
「う…。」
 ますます、心臓がたまらないほどに、肌を破るほどに体の中心で暴れて始める。
「おやすみ…。」
 三成は、幸村が完全に寝ているのを確認して、おでこ全開でますます子供みたいな幸村に、そろそろと顔を近づけると、こっそりチュッと頬にキスをしてみた。
 それだけで、心が、こんなにも震えてくるなんて、初めてだ。
ああ、駄目だ。気持ちが高ぶって、全然眠れそうにないけれど。
明日のことを考えて、三成は無理やり瞼を閉じた。


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