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小説
その1
<12月19日 月曜日> 

「みーつーなーり。お前だけなんだよ。このクラスでまだ決めてないの、さっさと決めてくれるか?」
「何をだ?大学入試の申請用紙はとっくの昔に提出済みだぞ。」 
 バンッと三成の机に、カラーのパンフレットが荒っぽく置かれた。そこには、クリスマスパーティの文字が素敵に躍っている。
 元親は鼻息荒く、三成に食って掛かる。
「ち、が、うっつーの!クリスマスの仮装パーティの相手!ここの習わしで、3年生全員、校内から1人相手を決めないといけねえって、お前だって知ってんだろ。この3年間、誘われまくってんのに、全部断りやがって〜!!!全男子生徒の敵みたいになってっぞ!実行委員の俺に迷惑かけんな!」
「面倒だな。」
眼鏡の真ん中をクイッと上げ、問題集に目線を戻し、ばっさり一言で切り捨てる。
「学校の伝統行事だ!ちゃんと参加しろよ。」
 元親は三成から問題集を取り上げる。三成は不服そうに目を眇めながら、視線を窓の外へ泳がす。
「じゃあ、あれ、あの子でいい。」
 三成の席は、窓側。校門から生徒が教室へ急いでいる姿が良く見える。その中に、ちょっとだけ他より可愛いショートカットの女の子が目に入ったから、その子をあれと指さす。
「んん?どれどれ。」
 元親は、吐息で真っ白にするくらい顔を窓へ密着しながら、きょろきょろと校庭を見回す。
「あの、ショートの、可愛い子。」
「えーと、可愛い子、可愛い子。どの子かなあ?」
 朝の登校時間ということもあって、校庭には50人近く生徒がわらわらといる。元親は、ウォーリーを探せ、みたいに目を皿のようにして、探しまくる。
「ショートの可愛い子って…、ああ、あの子か?」
「あ、コケた。」
 三成は見たままの情景を、ボソッと呟く。
 その三成が指差した相手の隣で、盛大に男子生徒がこける。何か急いでいて、石にけつまずいたらしい。派手に顔面からヘッドスライディングみたいに滑ってしまっていて、見ていて悲惨だった。横にいた女の子の大丈夫ですか?という言葉らしい問いかけに、頭をかきつつ笑って答えている。
「えええっ、あの子、あの子でいいのか?マジで?お前、これは一生に一度あるかないかのビックイベントで、このイベント目的で、ココに入ってくる生徒も多いんだぞ。考え直した方が…。」
「あの子でいい。何度も言わせんな。」
 しつこい、と呟くと、元親の手から問題集を取り戻し、眼鏡の位置を直しながら、勉強をし始める。
「分かった、あの子だな。じゃあ、放課後、ここに連れてくっから。お前、逃げんなよ。」
 最後の一言を念押しして、元親は、はりきって腕まくりをすると、早速教室から出てゆこうとする。
「この遠目で、相手がよく分かるな。」
と、視力が弱く、裸眼だと何も見えなくなる三成は、元親の野生の視力に、ほとほと感心する。
「あいつ、俺の後輩!部活が一緒なんだよ!!」
 すでに廊下へと走り出しながら、元親は振り返りもせず大声で返事した。おっとごめんよーと、同級生とぶつかりそうになりながら去ってゆく元親の後姿を見送りながら、三成は物思いに耽る。
 部活って確か元親は剣道部だ。あの子も、剣道やるのか…、フン、意外だな…。
 ふとさっきの続きが気になって、シャーペンをくるりと指先で動かしながら、窓の外へ視線を戻してしまう。下では、今度は、あの不幸の渦中が、鞄の蓋がちゃんと締まってなかったらしく、中身をぶちまけている。ししおどしみたいに、周り四方に謝りまくっているのが、また悲惨の上塗りだった。
「朝から、最悪だな…可哀そうに。」
 机に肘をついて、高みの見物みたいにまだ繰り広げられているドタバタ劇を見つつ、少しだけ頬が緩みながらも、放課後あの女の子と会わないといけないのも、これまた面倒だな、と溜息をついた。
―――恋愛なんて興味無いし、人と付き合うのも、面倒くさい。
 もしかしたら、今、生きていることさえも。


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