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小説
その19
 ぴぴぴぴぴ。
 無機質なアラーム音に、元親は顔をしかめる。手を伸ばし手探りで携帯を取ると、即行で解除した。窓からは陽の光が差し込んで来ていて、完全なる朝だと気付く。
「あー…ねみい…。って、なんか、体重いな。」
 腰のあたりに激しい違和を感じて、元親はその元凶に声をかける。
「おいおい、政宗、寝ぼけんなよ。俺は女じゃねえぞ、抱きつくんじゃね…、ああ?」
 視線を下に落とすと、がしっと、大木のしめ縄みたいにジャージの腕が腰に巻き付いていて。でも、そのジャージの二本線が2年生の赤なのに気付く。
「ん?まさか幸村っ…。」
 上体を起こし振り返ると、腰に幸村が抱っこちゃん人形ばりに、しっかりへばりついてスースー寝息を立てて熟睡中。で、その幸村を政宗が腕枕して寄り添っている状態。
―――俺に抱きついている幸村に、政宗が抱きついてる…しかも全員男な変な状況…。
2人の布団の間に、幸村がドンと割り込んで寝ていると言った方が早いのか。
「な、なんで、なんでここに幸村が?」
―――昨日寝た時は、政宗と2人だった気がする、けど。
 俺、まだ寝ぼけてんのかよ、と、ごしごしと手の甲で目の粘膜が動くくらい目を擦ったけど、勿論、今の状況は変わらず。
「おい、おい政宗、起きろ。起きろって。」
 抱っこちゃんな1人を飛ばして、まず政宗の肩を揺り動かす。
「あー、何だよ。俺、夜中まで働いて疲れてんだよ。」擦れ声で政宗はぼやく。
「寝ぼけんな、おら起きろ、朝だ。」
 うーっと唸りながら政宗は起き上がると、日の光の眩しさに慣れなくて、顔を上げられないのか俯き加減で、その場に胡坐をかいて座る。
「まずは、これの状況の説明をしろ。」
 これ、と、へばりついて自分から離れない幸村を指さして、元親は言う。
「あー…、まあ、色々…。」
 ちらっと「これ」を目の端で見た政宗は、適当に言ってお茶を濁す。話せば長いことになるので、めんどくさくて説明したくないのが、見え見えだ。
「だーかーら、なんで、幸村がここにいんだよ。」
 わしゃわしゃと大型犬を撫でるみたく幸村の頭を無造作に撫でつつ、元親は、低血圧なのかまだぐったりしている政宗に問う。
「こいつ、今日の夜もここで寝かすから。」
 あーだりい、と、頭を押さえている政宗は、気怠い感じで呟く。
「え、幸村、今回は俺たちと一緒じゃなく、自分のクラスの部屋で良かったんじゃねえの?お前自身が本人に言ってただろうが。」
「うるせえな、こいつは重大規則破ったから、監視中なんだよ。」
 眠くて不機嫌なのか何なのか、口調がいつも以上に荒い。
「ええ、幸村が規則違反っ?ちなみに何した?飲酒?煙草?ここから抜け出して近所を徘徊?…ってこれはねえか。周り、何もない海だしな。幸村ならガキだから買い食いか?」
 うししと元親は自分の言ったことに受けて自ら笑うけれど、政宗は冷めた目つきで見て。
「だから、女子の部屋に夜這いだよ、夜這い。まあ、友達につきあって行っただけみてえだけど。一応、こいつも生徒会役員なんだから、問題だろうが。」
「よ、よばいっ!」
 その単語の破壊力は凄まじく、早朝だと言うのに近所迷惑も顧みず、大きな声を出してしまう。
「えええええっ、一番意外っ!幸村が?まじで?うっそお。」
 大げさな身振りで両手を口に当てて、オネエ言葉になって驚く。
「で、元親、このこと、三成だけには絶対言うなよ。」
 寝ている幸村を覗き込みながら、その額にかかっている前髪を指先で払い、政宗は殊の外真剣な声で言う。
「え?何で、三成?」
「あいつ、風紀委員だろうが。」
「おお、そっか。こんなんバレたら、やっぱ停学騒ぎか。」
 でもこわーい風紀委員長は、三成では無く小太郎の方で、あいつなら容赦なくそうなりそうなんだけど…と思ったけど、朝だしめんどくさいんで、まあいいかと流す。
「こんな、可愛いあどけない子供みたいな顔してなあ…、やっぱ男なんだな、お兄さん、ちょっとだけショック。」
 つんつん、と、未だ自分に抱きついたままの、無邪気に眠る幸村の頬をつつく。
「まあ、女子に抱きつかれただけで、案の定ぎゃあぎゃあ騒いでたけどな。おい、べたべた触ってないで起こせよ、そろそろ。顔洗いに行こうぜ。」
 バックの中からタオルを出しつつ、欠伸を噛み殺している政宗は言う。
「おい、幸村、幸村くーん、朝だぞ〜。御飯だぞ〜。大好きなお菓子だぞ〜。」
 ぺちぺちと元親は張りの良い幸村の頬を叩きながら、起こしにかかる。
幸村は「お菓子」のところで、ピクリと身じろいで。
「んー、佐助、あと五分だけ、お願い…。」
 元親の腰に顔面を押し付けぎゅぎゅっと抱きつき直した、その幸村の気怠そうな寝ぼけ交じりの言葉に、和んだ表情で覗き込んで見ていた上級生2人の動きがピッタリ止まる。
「「おい、佐助って、誰だよ?」」


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あきゅろす。
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