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小説
その12
「あ…、赤だ。」
 生徒会室へ着くなり待ち構えていた元親から、箱の中から棒を引けと言われて、何のことか分からず、箱からおみくじみたいな木の棒を引き抜く。見てみると棒の先端が赤かった。
「幸村、赤?俺も赤、海だぜ、海!一緒に遊ぼうぜ。魚釣り教えてやる。」
 元親は豪快に笑いながら、バンバンと、何のことか分かってない幸村の背中をよろめく程に叩く。
「赤?海???何の話でござるか???」
 首を傾げまくる幸村は、未だにわけがわからず、頭の中をハテナマークだらけにしている。
「馬鹿、元親。遊びに行くんじゃないぞ。オリエンテーションだろ。学校行事。」
 家康は苦笑いで、テンション高めの元親をたしなめる。
「そういう家康はどっちだよ。」
「わしは青だけど。」ひらひらと木の棒を目の前で振って見せる。
「過酷な山登りの方かよ、ご愁傷様。」
 その横で、棒の先端を一瞬睨んだ三成が、無表情で棒をテーブルに激しく投げつけている。
「えーなになに、三成も、山かー。しんどいなあ、山は。去年もしんどかったよな。毎年、山じゃねえか、三成。三年連続か?」
「煩い。」こちらに背中を向けている三成の肩が、ふつふつと怒りを露わにしている。
「じゃ、さやかは?」
 ん?と、ソファに腰を掛けて、優雅にお茶していた孫市は、元親からの問いかけに。
「わたしも山だな。わたしは山もなかなか好きだぞ。」
「んーじゃあ、三成と家康とさやかが山なら、ここには今いないけど、政宗が海だってことか。」
 元親は、目を通しているオリエンテーションの書類をめくりながら、ボリボリ鼻の頭をかきつつ、ぼんやりともらした。それに耳をそばだてて確認した三成は、密かにギリッと歯ぎしりをした。
「あの、海とか山とか、一体何なんですか?」
 幸村だけがまだ話を飲み込めていない。背の高い元親の肩越しに背伸びをしながら、持っている書類を覗き見ようとして失敗している。
「馬鹿、ちゃんと2年生の幸村に分かるように説明してやれよ。大きい目がますます大きくなっちゃってるじゃないか。零れ落ちるぞ、しまいには。」
 世話焼きの家康が幸村の肩に手を置きつつ、懇切丁寧に説明してくれる。
「話はホームルームで担任から聞いていると思うけど、今月末に予定されている、新しいクラスになってからの2泊3日のオリエンテーション研修、山と海、2種類どちらか選べるようになっていただろ?けれど、生徒会のメンバーは選択制じゃなくて、どちらかに偏らないように、二手に分かれることになってるんだよ。クラスの学級委員を束ねる役ってわけ。」
「え?オリエンテーションでも、雑用係でござるか…。」
 うわあと幸村は思わず、ウンザリ具合を顔に出してしまう。
「そういう宿命なんだよ、生徒会役員って。」
 ごめんな、なんか巻き込んじゃって、と気の良い家康は、幸村に申し訳無さそうにそう告げた。
「とりあえず、楽しもうぜ、なっ、幸村。」
 海に行けるぜ、と、その場にいる中、元親だけが楽しげだった。


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あきゅろす。
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