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小説
その8
 2度と来たくない、と強く願っていたのに、あの1時間後には、案の定、三成にドナドナみたいに、ここまで手を繋がれて先導されてここに来てしまっていた。勿論、生徒会室に入った途端、手は外されて、三成は家康の所へ向かってしまう。きっと先ほどのフォローに行ったのだろう。家康は、やはり、少しぎこちない笑顔で三成と話をしている。友達が男と保健室でキスをしていたら、そりゃ誰だってショックを受けるだろう。
―――未だに、石田先輩の…。
 キスの意味が分からない。何で2人きりになると、俺なんかにキスしてくるんだろう…。誰にでも、するんだろうか?石田先輩が帰国子女で、挨拶、みたいなものか??あの、家康、って呼ばれた人にも、あんなふうに、優しく、キス、するのだろうか…。
 そこまで考えて、何故か、小さな棘みたいな何かがひっかかって胸が苦しかった。理由が分からないけれど、灰色っぽいもやもやが心を支配する。
「えーと、じゃあ、全部出来上がったな。」
 会議用の机の上、あんなにあったA4の書類は、きちんと冊子になってそこに綺麗に並べられている。
 ぼんやりとそれを眺めていると、いつの間にか傍に政宗が来ていて、少し身構える。ちゃんと髪の毛も制服もきちんと整えられて、昨夜のアレが嘘のようだと思っていると、次の政宗の言葉で、すぐさま現実だと思い知らされる。
「あの、その、…体調は、大丈夫か?」
 言い難そうに、政宗は頬をポリとかきながら、どこか違う方向を見つつ、幸村に問う。
「は、はい。俺は、大丈夫です。体だけは、丈夫でござるから。」
「悪かったよ、色々、ごめんな。あんたを保健室に置いてけぼりにしたり…。心細かったろ?」
「ううっ、…だ、いじょうぶ、です…。」
 平然としろ、と、脳に命令するのに、顔を真っ赤にした幸村の視線は、政宗の顔を見られず足元に送られる。恥ずかしすぎて、どこかいってしまいたくなる衝動に駆られる。あの床の小さな穴ひとつにでも入りたくなる。
「とりあえず、あんたに、皆を紹介しないとな。」
 さりげないごく自然な感じで肩を抱かれると、部屋の中央に連れて行かれる。
「えっと、まず、あの窓枠に腰掛けているおっきなやつが副会長の元親、で、三成の横にいるのが体育部長の家康、ソファに座っている女が生徒会紅一点の書記の孫市、で、その隣に立っているのが生徒会とは別の組織になるけど、風紀委員長の小太郎な、無口だけど怒らせたら怖いぜ。風紀委員には兼任として会計の三成も副委員長として参加してる。おーい、皆、この子が今日から生徒会に新しく入ってくれる2年生の真田幸村君。転校して行った市の代わり、空席だった文化部長になってもらうから。」
「ええ?何、俺、そんなこと知らないでござるっっ。」
 幸村本人が、それを今、この時点で知って度肝を抜かれる。目を真丸にした状態で、ガバッと政宗へ振り返るけれど、政宗は、まあまあと笑顔で宥める。
「よろしく!あんた、確か去年の校内剣道大会で剣道部の連中差し置いて1位になってただろ〜。すっげ強くて、向かう所敵無しって感じだったなー。」
「はあ、どうもッス。」
 元親は、握力全開で、ぎゅぎゅっと幸村に握手してくる。
「じゃあ、家康の体育部長と交換しても、しっかりやれそうだな。」
 孫市も颯爽と傍に寄ってきて、よろしく、と、笑顔で握手を交わす。女の人なのに、そこら辺にいる男よりも堂々としていてカッコ良い感じだった。
「さやかは女子に絶大な人気なんだぜ。」
 親指で孫市を指さしながら、政宗が付け加えた言葉も納得いく。
 そういえば鶴姫が生徒会の誰かに「憧れている☆」って、目をハートにして言っていたのはこの人じゃなかったっけ…、あれ、違ったか?
「そんな、わしのお株を取らないでくれよ。わしは運動だけが取り柄なんだから。」
 はは、と家康は、笑顔でポンと肩を叩いてくるけれど、あ、と一瞬微妙な空気が流れた。お互いにさっきの保健室でのことを思い出してしまったらしい。
「まあ、しっかり働くんだな。」
 少し遠巻きにしていた三成は、書類に目を落としたまま、そっけなくそれだけ言った。眼鏡の奥の瞳を細め見入っている、今、三成が手にしている書類はさっき家康が落としたものだった。やはり急を要するものだったらしい。
「石田、お前、真田と知り合いなのか?」
 孫市は、振り返って三成に問う。
 元親が、そういやー、という感じで付け加える。
「三成は俺と一緒に去年の剣道大会の審判していたから、幸村のことは知っているはずだぜ。」
「!?」
 それは初耳だった。あの去年の文化祭、メイド姿で会ったのが初対面だと思っていたのに。
「そんなこと、私は忘れた。」
 フンと、三成は吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「そーんなこと言って、幸村の試合、お前が一番食い入るように見ていたじゃんよ。」
 からかうようにそう告げて、ふざけて三成の肩を抱いてウリウリとこめかみを拳で刺激する。
「私は知らんと言ってるっ。」
 おんぶおばけみたいに抱きついてくる元親に、わずらわしげに三成はそう言いながら、ちらっと幸村を横目で見て、カッと頬を分かりやすく赤くする。
―――それで、初めて会った時、一瞬、驚いた顔をしたんだ。
 隣に立つ政宗は、抱いていた幸村の肩をぎゅっと強く握って。
「とりあえずあんたが慣れるまでは、文化部長の仕事を俺がサポートすっから。大船に乗ったつもりで、いてくれな。」
 え、と幸村は、すぐ近くにいる政宗に、内心どぎまぎしながらも。
「それは、俺に、拒否権は無いんですかね?」
 ガックリと肩を落とすしかなかった。


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あきゅろす。
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