[携帯モード] [URL送信]

小説
黄昏に微睡んで 前篇(三幸です)
丑三つ時の、三日月が綺麗な夜。
壁を突き抜けるでかすぎる幸村の慌て声が、ほうほう静かに鳴いている梟の声と、コントラストする。
「あああああ、あのっ、」
―――ここここ、心の、準備がっ!
 その三成の見た目細い腕、華奢な体にどこから力が湧いてくるのか、幸村は、敷き布団の上にあっけなく押し倒されて、腰のあたりに馬乗りみたく上から圧し掛かられて、顔を首まで真っ赤にして狼狽えている。綺麗な三成の顔が、視界がぼやけるほどに傍にあって、両手は10本指全てしっかり握られていて。
 温度の熱い唇が首筋を滑る刺激だけで、背筋がぞくぞくしてきて、くっと息を飲んだ幸村の脳は、既に沸騰しそうだった。
 実際は、行為に及ぶのは初めてというわけではなく。
半年前に一度だけだが、契りを交わした仲だし、こういう流れになると分かって三成の寝室まで来ているのだ。とは言え、やはりこういう、本人曰くふしだらな行為に慣れていない幸村は、男らしく腹を括れなくて、じたばた四肢を暴れさせてみたりするのだ。
「あのあのっ、もうしばらく、待って下されっ!」
「…。」
 息を乱して顔を火照らせる幸村を、じっと瞬きもせず見下ろしていた三成は、無言で何か考えている。幸村は肩を肌蹴ていた着物を再び着込みながら、ドキドキと鼓動を早めつつ、三成の次の行動を待つ。
 そうこうしていると、不意に、抑え込まれていたはずの拘束が無くなった。
「え?」
「貴様の、嫌がることはしない。」
 幸村の後ろ髪を一房持ち上げた三成は、それをうやうやしくそっと接吻する。
「え、ええ?」
上体を起こした幸村は、ぎゅっと懐に入れられるみたく抱きしめられて、後頭部を子供にするみたくわさわさ撫でられて、ちゅっとこめかみ辺りに優しいキスを落とされても、行為を諦めた三成の呆気無さに驚きを隠せない。
幸村がそっと指先で触れた場所、先ほどキスを落とされた鎖骨辺りの跡が、火傷みたいにじんじんと疼くのに、三成は名残惜しさも微塵も見せない。
「あの、三成殿?」
「入れ。」
 三成は、正座をして呆然としている幸村をよそ目に、寝床に横になると、掛布団をめくって、幸村へ入るように促す。幸村は、そんな表情が乏しく何を考えているのか三成を見て、ううう、と1人百面相して思案していたが、動作大きめに三成の横へ滑り込む。
「風邪をひくぞ。もっと近くに来い。」
 瞬間、1人分の布団のため密着しないと食み出てしまうせいか、三成が幸村のくびれた腰を引き寄せ、幸村の髪の毛に頬を埋め、抱き枕みたいに両腕でぎゅっと抱きしめる。
「温かいな、貴様。」
「…っっ。」
―――す、すす、好いている三成殿と、こ、こんなに近いと、気持ちが昂って…。
 眠れるわけないではないか!!!
 心の中で幸村は叫ぶ。
 密着した胸辺り、1人心臓を早めながら、幸村は片方の目を薄く開けて盗み見すると、三成は目を閉じて、既に寝る体制に入っていた。長い睫毛、そして透き通るような綺麗な肌で、人形のようだと、改めて見惚れる。
 しかし、それより重大なことを思い出して、幸村は驚きを隠せない。
―――ええええ?
 本当に、本当にこのまま寝てしまうのか?
 すーすーと三成の規則正しい寝息が頬に当たって、くすぐったくて、ん、と幸村は小さく息を飲む。三成の両腕は、巻きつくように、幸村の体に回っている。
「え…っ。」
―――あ、まさか、こんなの…っ、たってる…!?。
 幸村は、自分自身の体の変化に気付いて、ぎょっとする。
 三成にあっさり引かれて、でも自分は発する言葉とは裏腹に体は正直で、下半身の疼きが酷くなってきているのだ。
 寝顔を盗み見していたはずの視線は、凝視に変わっている。
 ずっとずっとずっと会いたくて、触れたくて、恥ずかしすぎるけれど、あの夜の、あの天にも昇るような快感が忘れられなくて。情事の合間に、好きだと何度も熱っぽく言われて、心が蕩けそうになったのも、鮮やかすぎるくらいに思い出して。
「ひあ…っ!」
 寝返りを打った三成の足が、幸村の両足の間に入り、あろうことか、太ももあたりが股間にぐっと押し付けられた。
――――こ、こここ、これはっ…まずいっ。
 興奮しているのが、相手にばれてしまうではないか。
 押さえられて、ずくん、と、みぞおち辺りが、ますます重く痺れてきた。
―――本当は、俺…、こんなに、し、したかったのか…。は、破廉恥すぎではないかっ!
ぐいぐいっと、寝ているはずの三成の足が、布越しに幸村の股間を刺激する。
「っあ…っ。」
 思わず、感じ切ったような変な声が出た。
 幸村は、ハッとして両手で自分の口を塞ぐ。
―――1人で興奮しているのが、知られてしまうっ!
「はあ…あっ…あっ…ふああ…くうっ…。」
歯を懸命に食い縛って我慢しようとすればするほど、色を帯びて艶めいた声と熱い吐息は歯の隙間から洩れてしまう。ぎゅっと縋るように、幸村の手は三成の肩へ食い込む位の強い力でしがみついている。
 股間を嬲る足の動きは、速度を増してきた。幸村の声もそれと比例して大きくなってゆく。
「いあぁっっ…んんんっ…。」
 突然唇を塞がれた。
 火傷しそうなほど熱い舌が入り込んできて、息苦しいほど喉の奥まで舌で激しく舐めつくされて、翻弄されるままの幸村は生理的な涙を流す。くちゅくちゅと舌が合わさるたびに水音が聞こえてきて、幸村はますます体温を上げてゆく。
 三成の手は平らな胸板を滑り、不自然に立ち上った突起を摘まむ。過敏になっている幸村は、体をびくんびくんと跳ねさせる。
「んんっ…あっ…あっ!」
 のどの奥から、悲鳴のような喘ぎ声が発せられる。
「なんで貴様は、私をこんなに我慢出来なくなるくらいに誘うのだ。私と体を繋げることが嫌じゃなかったのか?」
 三成は乱暴な手つきで愛撫を続けながら、顔を真っ赤にして、一気に捲し立てる。
「え?」



1/1ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!