小説 罪深く、愛してよーエピローグー あれから、変わらない日常。変わらない世界。 あのヘンテコな薬の効き目も一晩で消え失せ、幸村が女の体のままということも無く、ましては、孕むなどということも勿論無かった。 そして、未だに、一目、自分を見つけた時の幸村が、仏頂面なのは相変わらずで。 けれど、それが不器用な幸村の愛情表現なのだと、やっと気づいた。 だから・・・。 「あんたには、一応、感謝してる。ちょっと場合によっては酷い目に合いそうだったがな。」 背中合わせに立つ政宗から発せられた言葉に、佐助は何度も眼をぱちくりさせた。 「へえ、独眼竜の旦那からそんな言葉が聞けるとはっ。せっかくこんなに気持ちよく晴れてるのに、大雨が降らなきゃいいけど。」 「てめえ、人がわざわざ礼を言ってんのに、茶化しやがって。素直に聞けねえのか。」 「・・・まあ、うちの旦那も幸せそうだし。これで、良かったというべきかな。」 「そう、なのか・・・。あいつ、幸せそうなのか?」 振り返って、政宗の顔をまじまじと見届けた佐助は、へきえきした表情をする。 「・・・何、その笑顔。ちょっと俺様、何、惚気られてんの?」 「別に。じゃーな。」 振り向きもせず颯爽と去ってゆく政宗の背中を見送りつつ、佐助はふうと腹の底から溜息。 「・・・あ〜あ、俺様も、愛が欲しいかも・・・。」 秋特有の空は、天まで届きそうにどこまでも青く高く、何より清らかで。 「お。」 泳ぐように、秋風に気持ちよさげになびく赤い鉢巻。 自分の気配に気づいた戦闘服姿の彼が、こちらを振り返る。 「政宗どの。」 「よう。」 そして、幸村に向かって右手を差し伸べる。 「いくか?」 「はいっ。」 ひどく嬉しそうに、朗らかに彼は笑って、自分の手をしっかりととる。 この儚い時代、あっという間の短い一生。 もしかして、いつか自分たちが命をかけて闘う日が来るかもしれない。 けれど、この想いだけは、決して無くならないだろう。 「幸村、俺は、あんただけを、愛してるぞ。」 「・・・え。」 顔を紅葉に負けないほど真っ赤にして、幸村の動きは一瞬止まるけれど。 「某も、政宗どののことだけを、大好きでござるよ。」 この、気持ちだけは、永久に。 [*前へ][次へ#] [戻る] |