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小説
罪深く、愛してよ-前編- ※女体物有ご注意!!!
「政宗どのっ。」
「何だっ。」
 額にはりつく前髪を右手でよけながら振り返り、大声で聞き返す。
 土砂降りの雨の中。激しい雨音に、普段から大きい彼の声さえも、鼓膜に届く前にかき消されそう。
 昼間だというのに、夜みたく辺りを覆う真っ黒い闇を掻き分け、敵陣に向かい、先を急ぐ途中。まだまだ寒さが厳しい4月の初旬。雨に打たれ、体温はゆるやかにだが確実に奪われていて、まずは早く雨風をしのげるところまで辿り着きたいと、足は自然に急かされる。
―――こんな時に、呼び止めやがって。
 足を完全に止めた政宗は、体ごとすぐ後ろにいるはずの幸村のほうへ向く。
 すると、呼び止めた張本人は、らしくなく俯き、下唇を噛んで黙っている。
 政宗は、何がしたいと言わんばかりの態度で、神経質に彼の右足はリズムを取っている。
「だから、何だって?煮えきらねえ態度で、トイレでも行きたいのかよ?」
「某っ・・・。」
 意を決したのか、幸村はガバッと顔を上げ、頬を林檎みたく真っ赤にして告げた。
「某っ、政宗どののことが、好きでござるっっ。」
「WHY?」
 驚きのあまり、目を丸くして、固まってしまった。
政宗はもちろん、周りにいた者皆が、きっと同じリアクションをとったであろう。
―――こんな時に、なんでそんなこと言うんだよ?
 政宗は、そのとき正直、嬉しいとか困るとか、そんなことより、そう思った。
 頬を染めていた紅色が首にまで増殖して、睨みつけるようにこちらを強く見ている幸村の態度も、おかしいといえばおかしいだろう。
 おいおい、告白って、こんなものなのか?
 もっと甘ったるいもので、もっとこう、シチュエーションとかあるんじゃねえのか?
 政宗は、冷たい雨水を体全体でしきりに受けながら、しばらくの間、呆然と立つしか出来なかった。

 

 幸村の行動には、他にも一般常識と政宗が認識していた事と、かけ離れたものがあって。
 そうあれから、幸村に好きと一方的に告白されてから、もう既に半年。
 セックスどころか、キス一つさせないのだ。
―――甘い接吻代りに鉄拳のお見舞いってか。笑い話にもならねえ。
 これには、政宗も怒り心頭気味だ。
「何なんだよ、あいつ。」
 思い出しても怒りが治まらず、日本酒を一気にあおる。度数の高いアルコールが一気に駆け下りた食道が焼けるように痛い。
 そんな痛みで、ズキズキ続く、心の鈍い痛みが麻痺したらよいのに。
『男同士でそんなことっっ、信じられないでござるっっ。』
と、言い放ち、俺を両手で突っぱねやがった。
 何だよ、なら俺のこと、好きなんて言うなよ。
「期待、しちまったじゃねえか。」
 ゆらゆら揺れる、小さなさかずきの中の水面。
 まるで、わさわさとざわめく政宗の今の心境だ。
「俺をからかって、楽しいか?」
 そう、本当は、告白されて嬉しかったのに。
このまま隠し通して、墓場まで持っていこうとしていた、叶うはずも無い相手に募った恋心。その想いが、もしかしたら、色あせずに済むかもしれないと、期待していたのに。
「俺、ばっかじゃねえの。」
 自らへ対し自嘲気味に吐き捨てて、勢いのまま八つ当たりするように、さかずきを畳へ投げ捨てた。
「あらら、これまた荒れてますね〜。」
「ッ。」
 一人考え事をしていた政宗は、背後から降ってわいた声に俊敏に反応して、腰にあった脇差をとる。
「ちょっっ、物騒な事しないでよ。」
「真田の忍のてめえが、なんでうちの城にいるんだよ。偵察か?」
 目にも止まらぬ動きで、小刀の切っ先は、相手の首元の静脈、確実に急所を狙っていた。
「ちょっ、だから〜、独眼竜の旦那が、真田の旦那のことで、ひとり悶々と悩んでるみたいだからさ、ちょっとアドバイスっていうかさ。」
 どこから入ってきたのか、佐助が両手を挙げ降参するポーズで、苦笑いしていた。
「いらねえよ、そんなもん。」
 一応、脇差はカチリと戻したが、苛立つ政宗はそっぽを向き、佐助に対し怒りを隠すことなく取り付く島も無い態度だ。
「なあ、うちの旦那の真意が知りたいんだろ?」
「何?」
 佐助はずかずかと政宗の正面へ回りこみ、うって変わって真剣な面持ちで低く告げたと思ったら、また表情をヘラっと崩した。
「放っておいても良かったんだけどね〜。あまりに見ていて可哀想でね。」
「てめえに同情される筋合いはねえ。」
 政宗は、ふんっと鼻で笑う。
「可哀想なのは、あんたじゃなくて、うちの旦那だよ。」
 はあ?と、意味がわからない政宗は、佐助に詰め寄る。
「何でだよ。振り回されてるのは、この俺だ。」
「それならさ〜、大の大人の男が、振り回されたままでいいの?一応、あんたに協力してあげようと思って来たんだけど。」
「それが大きなお世話なんだよ。」
 そう強い口調で言い放ちながらも、すこし落ちつこうと、政宗は襖を開けて外の空気を吸った。宵の肌寒い空気が、アルコールで火照った頬に心地よい。
 ふうと佐助は、政宗の背中を見つめながら、小さくため息をつく。
「旦那のこと本当に分かってんの?本当に、独眼竜の旦那のこと、からかって楽しんでるような、そんな人間に思える?あれでさ、すっごくすっごく悩んで、竜の旦那に好きだって言ったんだと思うよ。」
「え、悩んでんのか、あいつ。」
 振り向いた政宗への返事代わりに、佐助は何かを、彼の普通の人より高めの鼻先に突き出す。
「これの中身を二人きりのときに、うちの旦那に飲ませてみてよ。」
「何だよ、これ。」
 佐助が懐から取り出したのは、お守り袋ほどの大きさで、白い布地に桃色の刺繍の入った小袋。はっきりと胡散臭そうに政宗は、人差し指と親指でつまみあげた。
「内緒。でもきっと、これで旦那の本心が聞けると思うよ。」
「本心、ねえ。」
 未だ政宗は、佐助の言葉に半信半疑らしく、何の変哲も無い小袋を四方八方からしげしげと見つめている。
「あの人はさ、まだまだ、子供なんだよ。」
 そんな、ぽつりと落とされた佐助の嘆きに似た呟き。
「なあ、これを飲ませて、本当に大丈夫なのか?」
 変なモンじゃないだろうな、と、疑い深く目線を上げて佐助に戻すと、そこは既にもぬけの殻で、ついさっきまで話していた彼の姿は無く。
まるで起きたまま夢を見たのかと数回眼をこすったが、手の中にあるものがこれが現実だと物語っていて。
「幸村の、真意か・・・。」
 知りたいけれど、何でだろう、知りたくない気持ちもある。
「けれど、ちゃんと、聞くしかねえよな。」
 政宗は、小袋をしっかりと懐の心臓に近い部分に納めながら、そう決心した。


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