[携帯モード] [URL送信]

小説
その十一
 ―――なあ、神様という名のあんた。
俺が男だったら、幸村と一緒になれたのか?
 俺が、こんな中途半端な女じゃなく、男だったら。
 どうして、男に生まれてこなかったのだろう。
 どうして、どうして、どうして、どうして。
 その四文字が渦巻いて、何かが頭の中で、プツッと切れた気がした。

「政宗殿?」
 その後は、もう狂気の沙汰だった。
 驚く幸村の体を覆う着物を力づくでズタズタに真横に引き裂いて、肩が擦れて皮膚が剥けるほどに、嫌がる体を押し付けた。左右に着物をひん剥いて、眼前に露わになった切なげに上下する白桃のごとき胸にも、細かい傷、赤い線が痛々しく走る。
 半裸の状態の幸村は、ガタガタと草食動物のごとく震えている。
「政宗殿っ、やめて下されえっっ。」
 貞操の危機を感じたのか逃げようとじたばたと抗う四肢を、上から馬乗りに乗り上げて床に平伏せて縫い付ける。心の奥に眠っていたサディスティックな欲望の息吹き、今、目を覚ました。
「政宗殿、お願いでござるっ、んんっっ。」
 その涙目の懇願も、五月蠅いというふうに、噛みつくほどに荒々しい接吻で隙間無く塞いで無意味にする。口の中を甘い蜜のような唾液で満杯にされて、幸村は口の端から飲み込めぬ液を滴らせ、程無くむせる。喉の奥へと逃げ惑う舌を、数倍熱い舌で絡め取って捕まえて、何度も何度も執拗に表面を擦り合わせて、ぢゅっと吸い上げる。探られる舌にも感じる部分があるのか、ねっとり合わさって触れられるたびに腰砕けにされてゆく。
「んーっんーっんああっ。」
 唇を離した瞬間、互いのペロリと出した舌先から透明な糸がキラキラと引いて儚く消えた。
 もう脳が、血液が、湧き立ち沸騰してしまいそうだった。興奮が頂点に達しベクトルは振り切っている。
 はあはあと、お互いの荒くつかれる熱い吐息が部屋を充満している。
 幸村の容易に折ってしまいそうなほど細い首に十本の指を回し、その無防備な首筋を耳元から鎖骨へと探る動きで唇を滑らし、思い出したようにちゅっちゅと音を立てて吸い付く。続いて柔らかい敏感な耳たぶを嬲られてそのこそばゆい、痛痒い刺激に、幸村は歯を食い縛って眉間に皺を寄せる。
「っつ…。」
 幸村の、体を動かすたびにふるふると上下左右に揺れる豊満な形の良い胸を、欲望に塗れた目で追ってしまう。
「やめっ…見ないで下されっ…。政宗殿に見られると…なんかっ変になるうっ…。」
 一糸纏わぬ裸体を見られているのを意識するだけで体の奥がじんわり熱くなりそうな感覚に、顔を真っ赤にして幸村はいやいやと首を振る。きゅんっと下半身辺りが疼くのが耐え切れない。
「見るなって言いながら、ここ、こんなに立たせてんじゃねえよ。」
 下卑た口調で言いながら、淡いピンク色から濃い桃色へ変化し、ぷくんと盛り上がった突起をきつめに半回転させて捻り上げる。薄笑いを口元に浮かべた政宗は、今まで発したことの無い薄汚い言葉で、幸村を精神面からも追い詰める。
ぐにゅっと柔らかい、手に納まりきれないほどの大きさの乳房を形が変わるほど揉んで、そして顔を近づけた政宗は、乳首に尖らせた舌を近づける。
「何故、その様な所を舐めるのでっござるかあっ…ふあんんんっ。」
 敏感な突起を唾液でベタベタに濡れるくらい舐められて、怯えた表情の幸村は政宗の下で身を切なげにびくびくっと数回震わせた。
「気持ちいんだろ?こうすると…。」
「いああ…っ。」
 政宗の言う通り気持ち良すぎて出てきた生理的な涙を流しながら、幸村は感じ切った声を発するしか出来なかった。
「ふううっ…。」
 舐める音をわざと聞こえるように立て、しつこく何度も何度も嬲られる。突起と舌先の間につつーと透明な液が伝った。
―――このまま食い尽くしたい、全部、全て残らず自分のものにしてしまいたい。
 暗がりに浮かび上がる政宗は、唇の端を吊り上げて妖艶に笑った。
 ひしゃげるほどに性感帯の両胸をぐいぐい揉みしだかれ、漏れる息にも徐々に甘さが含まれてきた。
「はんっ…ああんっ…。」
愛撫されるたびに、そのきつい快感に、何も知らない初心な体は素直に反応し、びくんびくんと腰が波打つ。
「ま、政宗ど…のおっ…。」
 だんだん触られている胸とは別の、核の部分が疼いてきて、恥ずかしげに幸村はもじもじと身をよじる。不自然に両膝頭を擦りつけている。
 幸村の目は赤く充血して潤んで、物欲しげに訴えている。チロッと赤い舌が半開きの唇の間から見え隠れするのも、いつもの性とは無関係そうな幸村では考えられず、逆に煽情的で、胸が昂ぶる。
「なんか…ここ、変っ…あつっあついっ…のでえっ…。」
「口で言えよ…どこを触って欲しいんだよ。」
「ひやあんんんっ…。」
 それを口で表すのはなけなしの理性が邪魔をするのか、言葉と息を飲みこみ顔を反らすけれど、政宗はそことごく近い部分、内股辺りをさわさわとまさぐり撫でる。
「んんーっ…。」
 十代らしい瑞々しい、ずっと触っていたくなる肌の感触を楽しむかのごとく、円をくるくる描くように腿を触っていた手が徐々に核心に迫る。
「んあっああっ…もおっ。」
 けれど嘲笑うかのごとく、自分の身を翻弄する手は意地悪にまた離れていくのだ。
「ここを…。」
「何だって?」
 一旦動きを止め、顔を鼻先まで近づけた政宗は問い返す。そんな顔も憎らしくなるくらい端正で、幸村は心を切なげに震わせる。
「ここを…っ、幸村のここを…っ触って下されえっ。」
 とうとう耐え切れなくなった幸村は、政宗の綺麗な、でも修行の賜物か豆だらけの手を両手で持って自分の敏感なそこへ宛がって、泣きながら声を上ずらせて懇願した。
「あんた破廉恥破廉恥言って、何も知りませんって顔しながら、ホント淫乱なんだな…。」
 下卑た笑いを言葉に込めて、これでもかというほど幸村を傷つける。心と体へ同時進行で、一生癒えない傷を作ってゆく。
 熱く火照ってトロトロと滑った液を滴らせている、愛撫を今か今かと待ち構える奥に手を差し入れると、幸村は電流が走ったかのごとく背を折って、くううっと息を飲んだ。人差し指と中指でそこをめくり、ぱくりと開けると、続いて敏感すぎる部分を、爪を立てて強めに抉るように擦った。
「んあああああああああっ。」
 喉から絞り出した、悲鳴のような甲高い喘ぎ声。
 もっともっと快楽を引き出そうと、ぐちゅぐちゅと水音を立てて激しく形に添ってスライドする。ずっぽりと付け根まで入れてしまった三本の指先には、ねちゃねちゃと粘着質な液が纏わりついてくる。敏感な中壁を掻き混ぜて、解かして広げる作業を繰り返す。
「ここが、好きなんだろっ。」
「ふあああ…っああっ、ああああっ…。」 
 覆い被さって、ふるふると切なげに上を向き震えている乳首を含んで吸い上げ、舌の上でころころと転がす。
「ひあああっっっ同時は…だめえっ、だめえっ、い、いやあっんんっ。」
 甘ったるい感じ切った声が短く絶え間なく半開きの口から洩れる。もう羞恥心はどこかに消え去って、抗い方を知らない幸村は快楽だけに縛られる。火照った体はもう止まらなかった。幸村は強すぎる刺激に意識が飛びそうになり、縋るように政宗の首にぎゅっと両腕を回す。
「政宗どのおっ…ああああっああんんっふああ…っ。」
 止めどなく流れる汗を手の甲で拭った政宗の目に入ったのは、畳に転がる幸村の使っていた筆。政宗は背を伸ばしそれを持つと、幸村の忙しなく蠢くそこに宛がうと躊躇無くそのまま深く突き入れた。
「あうっっ、いったああ…。」
 瞬間、カッと両目を見開く。涙が流れた頬に、それが乾く前にまた滴がいく筋も伝った。
 何度も何度も深く突き入れては敏感な最奥をぐりぐりと刺激する。
「やら…やらあっ…もお…だ、だめえっ。」
 理性が見事に木端微塵に砕け散った幸村の、敏感な腰が勝手にゆらゆらと蠢きだす。
「はんっ…あああっ、あんっ、もおっやああっも、変っもお…なんか…ああああっ。」
 政宗の動きに合わせて、細い腰が淫靡にグラインドを始めて。
「ひああっ、もお、ああああっ、ああっ、いあああっ。」
大きく甘く喘いだ幸村は、びくびくっと数回麻痺したように体を震わせた。


★★★
シンと静まり返った室内に、はあはあと自分の荒い呼吸だけが大きく鼓膜に届いた。
 急激に冷え切ってゆく体温、そして脳の先端が白々と冴えてくる。
「幸、村。」
 倒れ込んで動かない幸村を見て、彼女を思う存分凌辱したというのに、予想していた喜びは皆無と言っていいほど生まれて来なくて、そう、底の見えないほどの虚無、深い深い絶望しか、心には存在して無くて。
「もう、これで、あんたの前には。」
 幸村の体には数えきれない細かい傷と、いたるところに内出血の痣、中心部分から透明な液と赤黒い血が扇状に零れ畳に模様を作る。
 その救いようの無い負のコントラストに、自分のしてしまった行為の罪の重さをはっきりと自覚するが、もうそんなの手遅れだった。
 ―――大切にしたいなんて、どの口が言ったんだよ。
「もう二度と、あんたの前に現れないから、安心してくれ。」
 泣きそうに顔を崩した政宗から、言葉はすとんと零れた。
 それしか、自分に用意出来た言葉は無かった。
 謝ることさえ許されない罪。それを犯してしまった自分。
もう絶望しか、自分からは生まれない。
 政宗はゆるりと立ち上がると、潔く幸村から離れ、そして迷い無く部屋から出てゆこうとする。


(政宗殿…。)
 音も無く部屋から出てゆく政宗を必死に呼び止めようとするのに、喉が潰れて声は発せられず、代わりにひゅーひゅーと壊れた笛のごとき息が吐き出されるだけ。
(いやだ…いやっ…政宗殿…。)
 重く鉛のような体が言うことを聞かない。
 追いかけたいのに、もう一ミリたりとも体を動かせない。
 離れてゆく、小さくなってゆく、大好きな背中。
 もう二度と会えないなんて、辛い、辛すぎる現実。
 嘘だと言ってほしい。こんなの夢でしかないのだと。
 心がガラガラとこんなにも簡単に壊れてゆく。断末魔の悲鳴を上げる。
 体なんて、痛くない。心が痛すぎるのだ。 

―――こんなの、こんなの、もう、いやだ…。

―――これが、今生の別れなんて…。



[*前へ][次へ#]

11/12ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!