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小説
その14
 心地良くて温かい。
 絹糸のごとく柔らかくて、ふわふわと気持ち良くて。
 もし天国に行けるなら、きっとこんな所だろうと、靄がかったぼんやりした頭で幸村は思う。このまま、この安息の地で眠っていたい。されど、それが叶わないことも自分はよく分かっているのだ。
 抗うように、こじ開けるように、ゆっくりと両目を開くと。
「…あっ。」
 思わず声を大きく上げそうになって、反射的に自らの口を両手で隙間無く塞ぐ。
 前にもこんなシーンがあった気がする。軽いデジャブを感じながら、目を瞬かせた。
 画像が二重、三重にぶれてしまうほど間近にあるのは、睫毛が長くて鼻筋が通っていて男でも惚れ惚れする綺麗な顔。泣きたくなるほど、大好きで、胸が焦がれるほど、愛おしくてたまらない彼だ。
 着痩せするのか均整がとれた筋肉がついた腕ががっしりと、幸村の細い腰と華奢な肩に回っていてぴったりと身を引き寄せている。床に政宗の羽織っていた蒼い着物がしかれていて、裸で抱き合って寝ている状態だった。
 顔があまりに近すぎて、体温を急上昇させた幸村はバクバク勝手に動きまくる心臓を抑えながら息を飲む。少し身じろぐと、政宗の抱く両腕の力が強まった。肺が圧迫されて息が詰まるほどに。
「えええっ。」
 そんな幸村の驚き具合が可笑しくてツボにはまったのか、政宗は笑いを噛み殺した声を出す。
「幸村、どうした?」
「え…、起きておったので?」
「ああ、あんたの可愛い寝顔、見てた。」
 ちゅっと赤まる頬に吸い付いて、朝から爽やかな政宗は、うっとりするほど端正な顔で微笑んだ。歯が浮くセリフも流暢に出てくる政宗に、逆に照れてしまった幸村は政宗の逞しい胸板に顔を隠す。
「…も、見ないで下され、恥ずかしいので…っ、」
 気付けば、チュンチュンと朝らしい小鳥の囀る声が表からする。
「朝で?」
 確かに、窓から木漏れ日が差し込んでいる。そちらに気を取られながらのろりと起き上がると、体の中心部分から漏れ出した生温かい液が敏感な内腿をつつーと伝った。
「…んんっっっ!」
 寝そべったままの政宗に背を向けてビクッと背をまっすぐにした幸村は、その瞬間肌を粟立たす。
「どうした?」
「何でも…、んっ…。」
 何でもと強がっては見たものの、そのトロリと出てくる液に、幸村は蹲ったまま起き上がれ無くなってしまった。 
「気持ち悪いのか?」
 あーと、何か思い当ったのか、ちょっと気まずい顔になって後頭部をぼりぼりかく。
「出してやるから、横になれよ。」
「え。」政宗の言ってる意味が分からず呆け顔の幸村は、彼の顔を見遣るけれど、政宗は幸村を押し倒そうとぐいぐい右肩を押してくる。
「中、気持ち悪いんだろ。昨日、調子に乗ったからな…。」
 そう、一度で終わるのかと思っていた行為は、風呂場からこちらに戻ってきても何度も求められたのだ。
「…これくらいなんともござらん…ううっ…。」
 その悶えるほどのくすぐったさに幸村は肩を丸めて耐えようとするけれど。
「もう、素直になれって。」
 昨日はあんなに自分から強請ってきて可愛かったのに、とか口を尖らせて言われても嬉しくもなんともなく。
「わわっ…、いたっっ。」
 体格の差があるために、あっけなく幸村の視線は程無く宙を舞い、天井をバックにしたり顔の政宗と出くわした。
「あんたの中に残った液を出すだけだから。」
 政宗の手は幸村の、膝を立てた両足のガードを抜けて、その間に伸ばされていて、剥き出しのその場所にやすやすと届く。
「…んっ!」
 顔を真っ赤にした幸村は、全身を強張らせてくっと息を飲み、耐え切れず爪を噛む。
 強引に政宗はまだ熱を持ったそこを薬指と人差し指でぱかりと開けると、立てた中指をズブッと突き入れた。
「…ふあっ。」
 幸村は赤らんだ自分の両目を手の甲で隠そうとする。
 昨日は蝋燭と囲炉裏の炎だけで照らされていた室内も、柱の傷まで鮮明に確認できるほど、朝日がさんさんと差し込んで明るくなっている。そのせいで、自分の感じ切った顔も、昨日政宗を受け入れていた薄い桃色の秘部も丸見え状態で。
「…結構出てくるな。」
 じわりと液が、床に扇状を描く。
「…あっ!くうっ…、うあ…。」
 昨日行為したばかりだからかまだ柔らかい解された内部をぐちゅぐちゅかき混ぜられて、指先で敏感な内壁を抉られるように擦られると、腰が浮くほどの快楽が襲ってきて、幸村は必死に歯を食い縛って甘い嬌声を抑える。
「出してるだけだけど、気持ち良いのか?」
「はんっ!、ああっ…、もっ、もお…。」
 釣り針形に折られた指先で精液を何度も早急な動きでかき出されて、噛み殺しきれなかった切なげな甲高い声が反らした喉から出てしまった。
「…幸村、いいか?」
 何を?と問いかけようとして、半開きの無防備な口は塞がれ、声は吸われる。舌と舌を絡め合う動きに、懸命に幸村も合わせようとする。
「んは…、ふあ…、んんっんっ…。」
「っ、少しは、上手くなったじゃねえの、キス。痺れてくるぜ。」
「んんっ!ふあ…、んあっ、あっ!、ああんっ!」
 短く途切れ途切れに、感じ切った、甘い砂糖菓子のような甘ったるい声が漏れる。
 明るい場所で見れば、その息を上げて白い肌を桃色に上気させる女性らしいラインの裸体は、体内に巡る血液を滾らすほど、舌なめずりするほどに陶器のように綺麗で。
 はっきりと鮮明に眼前に映し出されている美味しそうな白い乳房を空いていた左手でひしゃげるほど、ぐにゅっと揉まれて、幸村は目を見開く。
「ひああっ…、なっ、何を…、んんっ!、ふあっ。」
 そのまま嬲るように舌が隆起した乳首に絡んだ。唾液を纏った舌はねっとりとそれを覆いくすぐってゆく。奥を探る指の動きは目的を変えた。昨日発見した幸村の弱い部分を的確に押さえてゆく。くちゅくちゅとはしたない水音がそこから立ってきた。膣の奥に溜まっていた精液と、新たに生まれてきた愛液が混じって、音を大きくさせる。
「んあっ、政宗殿っ、っつあっ、…あんっっ!…あああっっ。」
 幸村はその背中を駆け上ってきた刺激の強さに抗うことを出来なくなり、快楽の海に溺れてゆく。幸村の両手は縋るように、覆い被さる政宗の首にぎゅっと巻かれた。
「も、もおっ、政宗殿っ、早くぅっ…、そっ某の中に入れてっ…んんっ!…下されっっ。」
 強請るように可愛い声で言われて、何度も合わせてふやけた唇に、啄むキスを一つ落とすと。
「オーケイ。」
 政宗自身も我慢の限界だったのか、幸村の裏腿を担ぎ上げて肩にかける。尻が浮いて、ひくひくと物欲しげに蠢くそこが全開に晒された。
 そこにすでに固く勃起した自身をあてがうと、容赦無くずぶずぶと埋め込んでゆく。
「ひああああーっっ!!」
 太く熱いそれに貫かれて、逃げ場がない幸村は甲高い声を大きく出す。
 愛液を滴らせていたそこは、それを潤滑油に容易に政宗を受け入れる。
「ああんっ!…ああっ、んあああっ、くっあああ…。」
 幸村の体を折り曲げて、腰を前へ動かし政宗のそれは最奥へ届いてしまう。
「あっっ…、ひいっ…ああっ!んあああーっっ!!」
 信じられないほどの天に昇りそうなほどの気持ち良さに、幸村はびくんびくんと体を波打たたせる。もう恥じらいもどっかに飛んで行って感情の赴くまま、引っ切り無しに感じ切った声を上げながら、最奥をずんずん抉られて腰を震わし悶えるしかない。
「んああっ…、あひっ!んんっ、…ああああっ!」
「好きだ、幸…。」
「んんっ、ああっっ、もっもおっ!…ああああっっ。」
 不意打ちでそんなことを囁かれて、きゅきゅっと奥が閉まって政宗自身を締め上げる。
「っ、も、もたねえっ…。」
 声を漏らした政宗は、奥を突く動きが早急に早まって、一気に上り詰めていって。
限界を感じ取った政宗は内部に埋めていた肉棒を抜くと、幸村の腹に白く濁った液を撒き散らせた。
「んああああっ!!…ひあああーっっ!!!」
 液を浴びた幸村は、一段と大きな声で叫び、政宗の背中に爪を立てて、一緒に達していた。

★★★★
―――ちょっとやりすぎたか。俺も結構若えんだな。
 腰砕けでそのまま失神してしまった幸村に上掛けをかけて銀世界になっている外へ出てきた政宗は、少しの罪悪感に縛られながら、気怠い動きで顔を洗おうと、家の裏にある井戸へ回ってくる。
 凍てつく周りを目の当たりにし、うーさぶさぶと、薄い着物一枚だった政宗が肩を摩っていると。
「政宗様。」
「うわああっ!」物思いに耽り完全に自分の世界に飛んでいた政宗は、突然声をかけられて珍しく慌てふためく。
「何だ、お前っ、来ていたのか。」
 脅かしやがって、お前は大木かよっ。慌てた姿を見られて恥ずかしくなった政宗は、八つ当たりするようにぶつぶつ文句を垂れる。振り返った先にいた、周囲の木に擬態化するかのごとく佇んでいる腹心に、政宗は実は内心安堵していたのだけれど。
「今先ほど、ここに着きました。」
 眉間に皺を深く刻んだ小十郎は、コホンと意味深に咳払いして、少し小声で告げる。
「その…、声が外まで漏れておりましたぞ…、少しは自重して下され。」
「…分かった、それはもういい。徳川の動きが分かったのか?」
 払い除ける仕草で手を軽く振り、問うた政宗は、井戸から桶を上げて、指先が痺れるほどの冷水で潔くばしゃばしゃと顔を洗う。
「徳川は、やはりわざと政宗様達を逃がしたようです。その時間差で、敵の奇襲を受けております。どうやらそれを回避するためかと。」
「何?」
 水浸しの顔をそのままに、政宗は顔を酷く真剣な表情にし、傍にいる小十郎に目線を送る。
「…徳川家康も無事だったようですが…、その敵の標的がどうやら…。」
 小十郎は、明るい場所で見れば見るほどみすぼらしい小屋に、もったいぶって視線を泳がす。
「幸村か…、敵の目的は一体何なんだよ…。」
 頭を左右に振り、滴を振り払った政宗は、静かに声を足元に落とした。


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