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小説
その壱
 空間をつんざくような金属音をそこら中に響かせて、刃と刃が重なりあった瞬間、火花のごとき閃光が走る。
血沸き肉躍る瞬間というのは、まさしく今みたいな時。それを証拠に、政宗は今まさに戦っている真っ最中だというのに、ひどく楽しげに口元に笑みを浮かべている。余裕なんてない、だからこそ楽しいのだと、表情が物語っている。額に光る汗もそのままに、政宗は全身全霊で闘う。
一方の幸村は、真剣な表情で二槍を駆使しての怒涛の攻撃、槍が数本あるかのような錯覚を起こすほどの阿修羅のごとき早業で、こちらに息つく暇を与えず突き付けてくる。
「今日こそ、決着をつけようぜっ。」
「いかにもっ。」
空中へと回転し華麗にその身を翻していた幸村がその着地の際、ズルッと踵を滑らせた。
昨日までの大雨のせいで水分を含みぬかるんでいた土に足を取られてしまったのだ。
「うわあっ。」
「幸村っ。」
刀で急所を狙っていたはずの政宗がそれを寸前で避けて、手に持っていた命の次に大事なはずの刀を放ると、不安定な幸村へと精一杯両手を伸ばした。そして、抱き留めることには成功したのだが。
幸村を支えたまま着地した場所が悪かったのだ。着地点のそこは傾斜50度以上の崖の間際。右足がズズッと急斜面へ向かって斜め滑りして、そしてそのまま、視線は宙を仰ぐ。
「うわああああっ。」
 悲惨な雄叫びを崖上に残したまま、自分達の身は、ごろごろごろと車輪のように転がってゆく。最後、平地まで辿り着いた弾みでドンと後頭部が地面へ叩きつけられ、脳震盪を起こした政宗はその場でぐったりとひれ伏してしまう。
 そして、そのまま自分の見ていた世界は、黒に埋め尽くされ、暗転してしまい。
「ま、政宗殿っ、政宗殿っ。」
 その声が、フェードアウトしていく意識と共に遠ざかってゆくのを感じながらも、どうすることも出来なくて、ひどく歯痒かった。


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