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小説
その8
 この時期の脱衣所は下から冷えがせり上がってきて、とてつもなく寒い。
しかも横からチクチクお小言で釘をさされていて、心も隙間風が吹きまくっている。
「間に合ったからよかったようなものの、恰好も男に戻ってるし、危なっかしいたらないよ。」
 ため息交じりにくどくどと言われて、自分が悪いと自負している幸村は、平謝りするしかない。
「佐助、すまなかった…。」
 最近、佐助に謝ってばかりだ。
その現実にもガックリと肩を落とした幸村は、小十郎から借りた政宗の着物と袴を脱いで丁寧に畳み竹篭に入れ、その室内にも吹き荒む冷気のせいで鳥肌が立ち始めた体は、一直線に動き素早く湯船に向かっている。
「……。」そして男らしく素っ裸で目の前を横切った幸村の何かに気付いた佐助は、横目で彼の体の一部に密かに視線を送り続けていて。
「この家紋って…。」
 そして、注意深く佐助は手に取った、その幸村が置いて行った着物の裏地を眺め、独り言のように呟く。
「…っ。」
 すると素早く戻ってきた幸村が、焦りを滲ませて、佐助の手の中からそれを奪うように取り上げた。
取られた佐助と取った幸村。無言で向かい合って、辺りに微妙な空気が流れた。
「ねえ、前々から聞きたかったんだけど、旦那にとって伊達政宗ってどういう存在なの。」
「…どんなって…。」
 切なげにひゅっと息を飲んだ幸村は。
縋るように着物をぎゅと抱いたまま、不自然に視線を泳がした後、俯いた幸村は考え込むように一呼吸を置いてから、顔を上げて優等生のごとき100点満点の発言をする。
「政宗殿は武術の腕もさることながら、一国の城主として民から慕われ、尊敬に値し…。」
 真剣な面持ちでとつとつと綴った幸村の言葉を遮って、佐助は少し乱暴に言い放つ。
「そんなこと聞いているんじゃないよ。好きか嫌いか、端的に言ってもらいたいわけ。」
「好きだなんてっ、そんな破廉恥な感情、政宗殿に対して持ち合わせておらぬ。彼は某にとって目標にすべき好敵手であり、敵武将であり…。」
「破廉恥って…、なら何、「これ」は破廉恥じゃないの?」
 これ、と、佐助は、つつっと幸村のむき出しの鎖骨のくぼみを指先でなぞった。
 ビクンと大げさに体を揺らし、幸村は顔をみるみる熟れきった林檎みたく真っ赤にする。
「ねえ、夕べ、情熱的にまぐわったんでしょ、独眼竜と…。あいつ、俺の主の体に内出血の跡、沢山残してくれちゃって。やることやってんじゃない。旦那は好きでもない人間と、こんな破廉恥極まりないことしちゃうんだ。」
「これは、政宗殿とは違うっ…。」
 幸村は叫びだしそうに、たまらず声を挟む。
「だって、その着物のこれ、ここ、伊達の家紋だよね。」
 とんとんと佐助が指で示す場所には、刺繍でその印がまざまざと刻まれている。
「そ…それは…。」
 頭の中が真っ白になって反論の言葉を無くし、顔を火が噴き出そうなほどこれでもかと赤くしている時点で、肯定しているのと同じ。
 ここまで嘘をつけない人間も珍しいよな。
 嘲るように鼻で笑うと、佐助は眉根を潜めた。
もっと上手く、ずる賢く立ち回ればいいのに。隠してもバレバレなのだ、幸村の考えていることなんて。わかりたくもないのに、はっきりと手に取るように容易に分かってしまって…。
 心をジリジリと燃やし尽くしそうな、理不尽な怒りの矛先は、目の前の彼に集中する。
佐助は、その言ってみれば素直な幸村の態度全てが面白くなくて、ギリリと不協和音を伴いつつ歯ぎしりして、顔をしかめた。
「…………。」
 両瞼を閉じた佐助は、真剣な面持ちでぼそぼそとその口の中で何か唱えた。
 瞬間。
 ボンッと突如爆発を起こしたみたいな音とともに煙が表れ部屋いっぱいに充満した。
「…さささ、佐助っ。」
 驚き上ずった幸村の、その体が変化していた。
 視界が晴れて表れた幸村の体は、女性特有の丸みを帯びたもので。隠しきれないほど成長した裸の胸元を、政宗の着物で辛うじて覆っている。
 裸のむき出しの、カーブを描いた細い腰をつつと触れられただけで、敏感な体は退くように竦んだ。
「破廉恥破廉恥って口では言うくせに、押しに弱すぎるんだよ。俺がこれから何をしても抵抗して見せてよ。これは修行だからね。」
「…さ、佐助?」いつもの腹心とは別人のような冷酷な表情、そして態度に、幸村は怯えを含んだ目をして、信じられずたどたどしく名を呼んだ。
「ねえ、俺から逃げてよ、旦那。」
 極限まで近づいて見下ろし、息を詰めた幸村の頬に手を添えた佐助は、一瞬泣きそうに顔を歪めて、そうボソリと低く囁いた。



★★★

 手首を折れそうなほどの強い力で握られて、容赦無く半ば引きずられるように浴場まで連れてこられていた。突き飛ばされるかのごとく水浸しの板張りの床に寝ころばされた後、ばしゃばしゃと顔に体にと、お湯をぶっかけられて。
「佐助、何を…。」
 突然こんなことを始めだした佐助に対し意味が分からず展開に付いていけない幸村は、そう言って戸惑った様子で見上げてくる。無意識なのか何なのか、その視線が媚びをうっているように思えて、それを見て欲情して、気分が高揚してくる自分に、佐助は勿論、気付いていた。そして、お湯に濡れそぼった幸村は、男としての征服欲、サディスティックな感情やらを駆り立てられるのだ。
「だーかーらー、いつもいつも独眼竜に迫られて逃げられないんでしょ。俺をあいつだと思って逃げる練習をしてみるんだよ。」
 幸村の腰に馬乗りに乗り上げた佐助は、ダンと両手首を張り付けるように床に押し付けた。
 隠すことが出来なくなった幸村の裸体は、佐助の眼前に曝け出される。
 湯に温められて肌全体が桃色に染まり、湯気が上っているその体は、舌なめずりしたくなるほど、煽情的だった。
「綺麗な乳首。ねえ、あいつはどうやって触れたの?ここ摘まんだり、卑猥に舐めたり、噛んだりした?」
「馬鹿…っ。」
 ふうとわざと息を吹きかけられるだけで、敏感すぎるそこはふるふると物欲しげに小刻みに震えている。
「こんなおっぱいにまで、派手に情事の跡をつけてくれちゃって。あいつもかなり女好きだよね。」
 つんつんと白い乳房の中心、桃色の乳首の周りの赤みを突かれて、幸村の体は、びくんびくんと面白いように跳ね上がる。
「ねえ、あいつ、こうやって触りながら、何ていうの。」
 荒い呼吸で切なげに上下する胸を広げた掌で触れる。手の中に納まりきれない大きくて柔らかい乳房は、少しの振動でぶるんぶるんと揺れる。
「旦那が望むなら、あいつのマネして抱いてあげる。」
 幸村はくっと喉を反らして、腰の下に溜まってくる熱をどうにかしたいと思うけれど。
「俺、幸村、あんたのこと、すっげえ好きなんだ。愛してる。」
 甘さを含んだねっとりとした口調で、耳たぶを舐めながら耳元に囁いた。
 むにむにむに、とピアノをつま弾くような手つきで、両胸をいやらしく愛撫する。
「とか言ったりするの?」
「あっ…そんな、ことっ、言うわけ、な、い…っ。」
―――政宗様は、お前の正体を知らず、女になったお前のことを少なからず好意を持っている。 
 瞬間、脳裏を掠めたのは、小十郎の言葉。
 かああと温度を増した頬。幸村はますます朱くなった顔を隠すように、顔を背ける。
「今、思い出したんだろ。言うんじゃん。あいつ、クサいこと言いそうだもんね。そういうナルシストなところ、俺様、大嫌いなんだけど。」
「そんなこと…っ。も、やめっ…ああっ。」
 仰向けだった体を回転させて這い蹲って逃げようとする幸村の胸を後ろから両手で鷲掴み、ぐにゅぐにゅ形が変わるほど乱暴に揉みあげる。
「あっあ…、ひあっ。」
 固く立ち上がりかけている乳首を伸ばすように引っ張り、そして押しつぶす。
 そして逃げる腰を、ずるずると簡単に引き戻した。
「幸村、もっとちゃんと逃げねえと、最後までやっちまうぜ。」
 笑いを含ませて佐助は耳元に直接吹き込むみたいに囁く。わざと演じるように政宗の口調、声の出し方を真似して、幸村を煽った。
「あ…あ、もおっ…ああっあんっいあっ…あっ。」
「旦那、ここ、好きなんだろ。すっげ、接吻の跡残ってる。」
 舌先でチロチロとくすぐり、耳の後ろの部分をきつく吸い上げながら、感触を楽しむように柔らかい胸を上下左右に揉み動かす手は休まず動く。
「あ…あっあっああんっっ。」
 くりくりっと親指と人差し指で乳首を捻じ曲げるように捻られて、その鋭い刺激に短く喘ぎ声を上げてしまう。
「俺も上手いよ。きっと独眼竜よりも。」
 くるんと、いとも簡単にまた元通り裏返された。そして、膝の後ろを持って膝を胸にくっつくほど折り曲げた。
蝋燭の灯りに照らされて、ピンク色の秘部が露わになった。
性感帯である乳首をこれでもかと触られて、佐助の視線の先にある場所は一段と体温を上げて朱く染まり、トロトロと出続けいる透明な愛液で濡れまくっている。
満足げに、佐助は猫みたいに喉の奥で笑う。
「ここ、すっげ収縮してるけど、
 ここ、と言った部分に、ふうと生温かい息を吹きかける。
唇を滑らし、ちゅっと腿の裏にきつく吸い付いた。
「ああ…っ。」
 途端上ずった声を零した幸村は、たまらず顔を覆って、身を捩じらせる。
 敏感すぎる秘部は、もう触って欲しくてたまらなくて
「旦那、簡単には触ってあげないよ。だってこれは修行だって言ったじゃない。今から、逃げてもいいんだよ。」
 煽るだけ煽られた体が、後戻りできないほど、熱を持ってしまっているのを分かっていて意地悪を言っているのだ。その証拠に、核心の場所には触れず、チロチロと舌先を出して足の付け根部分を探るように舐める。
「あっあん、…もお、さすけえっ…。」
 涙を滲ませた幸村は腰に直結しそうな甘ったるい声で、佐助を呼ぶ。
「なあに?」
「…っもお、おねが…っ…。」
「なに?ちゃんと言わないとやってあげないよ。」
「…んっ…。」
 まだ羞恥心を捨てきれていなかった幸村は、最後の抵抗か、口を噤んで泣きそうに下唇を噛んだ。
「ほら…なあに?」
 そう優しく問いかけながらも、煽るように掌は太ももを、円を描くようにさわさわと卑猥に触り続けている。
「おねが…っ、触って…、ぐちゅぐちゅにしてえっ…っ。」
「どこを?」
 ひどく楽しげに問うてくる佐助に応えるように、幸村は恐る恐る手を下に伸ばし、自らの性器に触れる。その刺激だけで、んんんっと、上ずった声で息を飲んだ。
「よくできました。」
「あああああっっ。」
 佐助の指先は、その部分にぐちゅりと入り込んだ。
「あっつ…こんなに待ち遠しかったの?旦那の中、熱いよ。」
 内部は柔らかくて、佐助の指を飲み込むかのごとく包み込んでくる。
「いああああっ。」
 あまりに気持ち良すぎて、たまらず幸村は、泣きそうに声を大きく漏らす。
「気持ちいいっ…もっと、もっと強くしてえっ…。」
 感じ切った声を出しつつ、腰を無意識に振りながら、幸村は佐助の首元に縋りつくかのごとく、きつくしがみついた。
「ホント、厭らしい体。あいつにこんな風にされちゃったの?こんなにも液、はしたなく垂れ流して…っ。」
 言いながら佐助は三本捻じ込んだ指で、奥をずんずんと激しく刺激する。
「お、おくうっ、奥あたっ…っ、あああ…もおお…だ、だめえ…あっあ…そ、そこおっ…。」
 感極まった声で啼いた幸村は、びくんびくんと感電したように体を震わせる。
「おかしくっ…なっちゃううっ…ふあああ…っ。さ、さすけえっ」
 自分から足を極限まで広げ、佐助の手に連動するようにガクガクと腰を蠢かした。
「腰、動いてるよ…。ここがいいの?」
 ぐちゅぐちゅっと水音を漏らしながら、指は最奥を抉るように擦った。
「ああああ、い、いくっ、もお、いっちゃう…っああああっ。」
 甲高い悲鳴のごとき声を出して、幸村はびくびくんと跳ね上がるように大きく体を揺らし。
 そして、ガクンと、冷たい床に突っ伏してしまう。
 糸が切れたみたいに脱力して気を失ってしまった幸村の、その頬に残る涙の跡を舐めながら、佐助は泣きそうにその耳に囁いた。
「旦那、大好きだよ。誰にも渡したくないんだよ。」
 小さいころから、蝶よ華よと、大切に大切に傍で見守ってきたのに。
柔らかい色素の薄い茶色の髪の毛を梳いて、体温の高い身を両腕に抱き。
「独眼竜にも、凶王にも…。」
 零れ落ちる本心は、眠りに落ちて意識を閉ざしてしまった幸村には届かない。
「誰にも…このまま俺の腕の中に閉じ込めておければいいのに…。」
 苦しげに一語一語声を押し出す佐助は、幸村のぐったりした体を強く強く、かき抱いた。

★★★
 薄暗くなってから居城に戻ってきた彼の背に、不意に声が投げかけられる。
「やれ、三成よ…また「あれ」を見に行っておったのか。」
「刑部…。」
 前を向いたまま、声の主が分かりきっている三成は、密かに目を細めて、そして、当たり前のごとく言い放った。
「「あれ」は前から私のものだと決まっている。私のものを私が見に行って何が悪いのだ。」
「三成…。」
 そして、振り返った三成は、彼がよく見せる人をくったような表情で、薄く冷酷に微笑む。
「あいつは私のものだ。誰にも渡さぬ。誰にも、誰にもだ。」
 まるで、先を読んでいるかのごとき迷いがない口調で。
「もうすぐ取り返す。」
 決意の声は、暗い室内に響いた。


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