小説 その6 宿の部屋に戻ると同時に、幸村の先ほどの発作が嘘のように引けて。 同時に小十郎が戻ってきて、また再び、平穏を取り戻したかに思えたが。 「駄目です、絶対。」 腕を組み、一段と難しい顔をした小十郎は言葉に重みを置きながらそう言うと、唇をぐっと一文字に引き結んだ。眉間には年月をかけて培われもう取れないかもしれない皴が、しっかりと刻み込まれている。 負けじと間髪いれずに、目くじら立てた政宗は反論し始める。 今の議論の題材は、幸村がどちらの部屋で寝るかと言う、些細と言えば些細、且つ不毛、でも、大きな問題で。 「何でだよ。部屋は二つしかとってねえんだろうが。なら、こいつと俺で、ここで寝れば万事解決だろ。」 「なんてことをっ。駄目に決まっておりますっ。年頃の女子と一緒に一夜を共にするなど、政宗様は伊達家の当主で、何か間違いがあってからでは・・・。」 「は?こいつと俺が?間違いなんて起こるわけねえだろうがっ。」 政宗はすぐ近くにいる幸村のきょとんとした顔を鋭く指差しながら、捲くし立てた。 「間違いとは?」 場に不似合いなほどゆったりとした口調で、ハテナマークをいっぱい飛ばしながら言った幸村に、政宗は頭を抱える。 「ややこしくなるからあんたはちょっと黙ってろ。じゃあ、百歩譲って俺が一人で寝るとして、こいつはどこで寝るんだよ。」 「私の部屋で寝かせます。」 「なんでお前の部屋なんだよっ。それこそ大問題だろうがっ。」 「あ、それなら某、別に廊下ででも寝れますが。戦場ででも寝れます上。」 あっけらかんと言ってのける幸村に。 「「それはもっと駄目だっ!」」 2人同時に振り返った声が、見事、綺麗にハモッた。 不毛な堂々巡りは続き。 数分後、幸村は仲良く三つ並んだ布団を眺め、嬉しそうに微笑んでみせる。 「川の字で、三人で寝るなんて、昔、父上と母上と寝ていたのを思い出しますなあ。」 「誰が母上役なんだよ・・・俺って言うなよ、絶対。おい、小十郎、明日の予定だが・・・。」 朗らかに笑って言う幸村を苦々しい顔で嗜めた政宗だったが、くいくいと小十郎を指で呼び寄せて、何やら彼に話しかけ始めた。 その間、幸村はすこし手持ち無沙汰で、広い室内を歩いてみる。 達筆すぎて何が書いてあるのか分からない掛け軸を眺め。お茶菓子を一つ二つ三つ四つ摘み食いし。 そしてふと見つけた、机の上の綺麗な貝殻で出来た掌にすっぽり収まるサイズの入れ物。 「これは、なんでござるか・・・。」 壊れ物を扱うように繊細な手つきで掌にのせ、そっと上蓋を開けて、続けて鼻を近づけて、スンと匂いを嗅いでみた。薬のような草っぽい奇妙な匂い。そして、指先にひとすくいして緑色の物体をぺロッと味見してみる。 「うえっ・・なんだ、これまずっ・・・。」 「おい馬鹿、それ・・・っ。」 「え?」 貝殻の容器を手にしている幸村に気づき、小十郎との話を中断して政宗は酷く慌てた様子でバタバタと足音を立てて駆け寄ってくる。 「あんたそれ、舐めたのかよっ?」 「は、はあ。」 噛み付く勢いの政宗に完全に圧倒ながらも、幸村はこくりとカラクリ人形のごとく縦に頷く。 「馬鹿野郎、それ、媚薬だぞっっ。」 「ええええええっっ。」 ドクン。 心臓が不自然に大きく波打って、不整脈でも起こしたのかと、幸村は怖くなって、着物の上から胸元を押さえた。 「う・・・っ、なんかっ・・・、あつっ・・・いっ!・・・。」 身体が燃えるように熱い。熱さなんて慣れているはずなのに、身体の内側に生まれてきた、燃え盛るマグマみたいな熱に、幸村は耐え切れず。 物体の正体を聞いた瞬間、催眠術のごとくあっさりと症状が出始めて、幸村は寒くも無いのに身震いをし始め、そして、畳の上にへなへなと足元から崩れ落ちた。その二の腕あたりを掴んで受け止めた政宗は、しくじったと、頭を抱える。 「・・・なんで、そんなの舐めちまうんだよ・・・。」 「政宗様っ、何のためにそのようなものを持ち歩いているのでっっ。」 その幸村のただ事ではない様に、焦りを滲ませた小十郎は政宗にきつく問質す。 「まあ・・・何だな・・・、ちょっと出来心で・・・って、そんなお小言より、こいつ何とかするのが先だろうがっ。」 不自然なほど顔が火照ってきて息遣いが過呼吸のごとく荒くなってきた幸村を、今度は両腕でしっかりと抱き上げながら、政宗は心配げに呼びかける。 「おい・・・、大丈夫か?」 幸村の頬を擦っただけで、その微かな刺激だけで、敏感に反応した幸村は、んっと息を飲む。それを見咎めて、政宗は腹をくくる。 「しゃーねえな。・・・ここでやるしかねえか。」 「駄目ですっ、政宗様。」 もう完全に効き始めたのか、両目をきつく閉じて無防備に政宗の腕の中にじっとしている幸村を目の端に映しつつも、葛藤中の小十郎の制止は今も尚続く。 「じゃあこのまま放っておけって言うのか。気い狂っちまうぞ」 「しかしっ・・・。」 まだ迷いを見せる小十郎は政宗の手を持ち制しながら、声を濁らせる。 「オーケイ、分かったよ・・・じゃあ、お前も手伝え。それでいいだろ?」 「・・・は?」 目を丸くした小十郎は、自分の主の発した言葉の意味が、一瞬本気で分からなくて、らしくなく聞き直していた。 ★★★ 静かな室内に、幸村の荒い息遣いだけが聞こえる。 「熱を逃がすだけだから・・・。」 そう諭すように言ったのは幸村を宥めるためか、それとも自分のなけなしの理性を奮い立たせるためか。 敷かれた布団に腰が抜けている幸村を寝かすと、足を投げ出し座る姿勢をとった政宗は、幸村の身体を自分の股の間に座らせ、もたれかけさせる。そして背後から手を伸ばすと、きつめに縛ってある着物の帯を外し、前を少し乱し肌蹴ると、着物の合わせ目に手を差し入れて、もう硬く立ち上がっている乳首ごとその大きくて柔らかい乳房を下から上に持ち上げるようにぐっと形が変わるほど揉んだ。 「やああっ!・・・やんっ・・・、やだああっっ・・・。」 瞬間、甲高い声とともに、ビクンと幸村の身体が激しく震えた。涙目で訴える幸村だったが、強弱をつけて卑猥に何度も揉まれる動きとともに短く喘ぎ始める。 「あっ・・・あっっ、・・・くっうっ・・・、あんっ・・・。」 その素直な反応に気を良くした政宗は、もっともっと乱れさせてみようと、政宗は着物の合わせ目に手をかける。自分が着せた着物を肌襦袢ごと脱がしてゆくと、肩からその白い裸体が、2人の目の前に露になってゆく。体温の上がった身体は、うっすら桃色に上気している。少しでも動くとぷるんと揺れるほどたわわに成長した胸の中心には、もっと鮮やかで可愛いピンク色の突起があって。 政宗も小十郎も、密かにごくりと息を飲んでいた。 「やんっ!・・・ああっ・・・、あんッ・・・、あ、見ないでっ、くだっ・・・。」 この、2人から同時に攻められる状態に、幸村はそれだけで、はしたなく身体の核部分が熱くなるのを感じていた。 政宗が10本の指で、直に大きな桃に鷲掴みみたく触れると、幸村はくっと息を飲んで、腰をビクンと浮かせて反応した。 「ひああっっ!、だっ、だめえッ・・・。」 乳首をくりくりとひっぱって、強い刺激を与えると、幸村は首を振ってヤダヤダと悶絶する。 「小十郎は、下を頼む。」 まだ理性と戦っているのか躊躇している小十郎だが、一時停止した後開き直ったのか、幸村の足元に跪き、幸村の両膝を立たせて白い綿の下着を剥ぎ取った。そこは何もしていないのに、ぐっしょり濡れて透明な糸を引いていた。中指で、誰にも触らせたことはおろか、見せた事も無い綺麗な、乳首の色と同じ桃色に色づいているそこに手を伸ばし、そっと指の腹で触れると、にゅるっと粘着質に滑る。 「あんんっっ!!」 悲鳴に近い嬌声をあげた幸村は、元でクロスしていた両拳にぐっと力を込める。 指は形に沿って、まず、皮を捲るように動き、続いて柔らかく入り口を解してゆく。 その巧みな指使いに、幸村は本気で我を忘れて、甘ったるい喘ぎを吐くしか出来なくなってきていた。その秘部は自由自在に収縮して蠢いて、奥に奥に指を誘おうとする。知らぬ間に幸村の腰は幸村の意思に関係なく淫らに動き始めていて。 くちゅくちゅと水音が漏れ始めて、愛液が漏れ始めたのか、滑りがますます良くなってきて、ひだは吸い付くように指に絡んでくる。 「ひああっ・・・、あんっ!、あっっ、そ、そこぉっ・・・そこは、ひんんっっ、・・・あああっ!」 政宗は、幸村の少し汗ばんでしっとりしてきた胸元に顔を寄せると、胸を指が食い込むほど掴み、その切なげに物欲しげに震える突起をじゅっと吸い上げる。 「ひあっ・・・、んんっ!…あっ・・・ああっ、ひああっ!・・ひああああんんっっ・・・。」 乳首の穴を滑った舌先でちろちろとくすぐりながら、もう一方の突起をきつく摘み上げた。 「ふああっ!・・・んああっ、ひんっ!…もおっ・・・、だっ、だめえっ!・・・んああっ。」 第二間接まで折り曲げた小十郎の指が、秘部のこりこりと立ち上がった場所を、くすぐるように刺激し始めた。 「ひああっっ!、…んあっ、ひあっああんっ!、…んあああっ!」 その蕩けるような強すぎる快感に、眉間にしわを寄せた幸村は、聞くものを腰砕けにさせるような、よりいっそう甘ったるくて高い声を上げ続ける。 逃げようと引く腰を押さえつけて、更にもっともっと強く激しく刺激を続ける。 「んあああっ、だめえっ・・・もっ!、もおっ・・・おっおれっ…ふあっ!」 目に涙をいっぱい溜めた幸村は、焦点の合わない視線で政宗を見つめて、助けを求めるように告げる。政宗は応えるように深く口付けると、舌を絡ませ、幸村の口内を舌で蹂躙する。 「んんーっ!、・・・ふんっ・・・ふあっ・・・あっ・・・、んんっ。」 小十郎のごつごつした太い指は幸村の弱点をひっかくように鋭く刺激した。瞬間、顔を動かした弾みで外れた唇から喘ぎが迸る。 「ひああああっっ!!!・・・んああっ・・・んんっ!!、あひっ…。」 突起を吸われると同時に、秘部を掻き混ぜるように激しく擦られて。 一気に駆け上がるように、頂点まで登りつめて。 「あああっっ、もおおっ、もっ、いくっ!いっちゃうッ・・・、いくううッ!!!・・ひああああッッ!!!」 部屋の外まで漏れそうなほど大きな喘ぎ声で啼いた幸村は、びくんびくんと数回麻痺して、政宗の腕の中にぐったりと身を沈めた。その目の端に滲んでいた涙を掬い取りながら、政宗は顔中にキスの雨を降らせる。 「政宗様・・・。」 「・・・俺、ちょっと、足、踏み外したかもな。」 小十郎の呼びかけに政宗は、気を失ってしまった幸村の頬をそろそろと撫で、ぼんやりと寝顔を見つめながら、そう呟いた。 ★★★ 頬へ規則的にかかるくすぐったい温かい空気で目覚めると、視界いっぱいの政宗のドアップがあった。 「っっ・・・。」 あまりの衝撃から、幸村は叫びだしそうになり、慌てて自らの口を両手で塞ぐ。 すぐ傍でこちらに顔を向けて寝ている政宗の寝顔は、年相応の、少し子供っぽさを残していて、顔を合わせた状態のまま幸村は少し微笑む、のも束の間。 ―――そうだった、昨日、あのまま寝てしまって・・・。 昨夜の自分の破廉恥具合を思い出したら、本当に穴があったら入りたい気分だ。いっそ今すぐ殺してくれと思ってしまうくらいの恥ずかしさだ。恥ずかしい、恥ずかしい、もうどうにでもして。 そんな羞恥心を消化しきれない幸村は、声を出さずに地団太を踏み、布団の上でゴロンゴロンと身悶えた。ひと段落付いて、辺りの様子を伺うと、障子の隙間から差し込んでくる日差しで、朝だということは分かる。自分の背後には、掛け布団を蹴り飛ばしている自分とは対照的で、布団の乱れも無く上向きの姿勢を崩さず、規律正しく寝ている小十郎がいて。 突っぱねた両腕を布団につき、むっくりと布団から上体を起こす。 ふと視界に入った自らの剥き出しの腕を見て、再び凝視して、目を何度も瞬かせた。 (こんなに二の腕筋肉がついていたっけ。) 「あれ・・・。」 自分の身体のいたるところを両手で何度も摩って確かめて。 そして、自分の身体に違和を感じたのが本物だという事を確信して。否、違和ではなくて、こちらの方がしっくりくるのを確認して。 そう、身体が、元の男の姿に戻っていたのだ。着ていた着物も女性用のため、大きさが合わなくて、角張った肩が剥き出しで、おまけに袖の寸法が腕に合わなくて、ちんちくちんでみっともない。 「あー、思い出したぞ。」 幸村は布団に両手を置きうつ伏せ、その上に正座をした器用な姿勢でため息混じりに呟く。 ―――旦那、よく聞いてね。この術は、3日が限度だから。そして、術をかけた俺に万が一の事があったら、その瞬間に術は解けるからね。 難しい顔をしてとつとつと語り聞かせる佐助の言葉が、脳裏を過ぎる。 「・・・そうか、今日で3日目・・・。」 項垂れた幸村は、寝起きで血が巡っていないのか回らない頭でこれからどうすればいいのか考えようとする。くしゃくしゃと、寝癖だらけの髪を更に乱れさせ、思案を巡らせていると。 「おい・・・お前。」 「え?」 背中に声をかけられて、反射的に振り返ると、驚いて目を見開いている小十郎と克ちあった。布団から数センチ飛び上がった幸村は、今度こそ大声で叫び出し、機敏に動いた小十郎に口を思いっきりふさがれる羽目になった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |