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小説
過去の慟哭。
どんどん意識が遠のいてゆく。
目の前の彼の姿も、プツンプツンと映像が途切れ途切れのように映し出されていて。
指先一つ動かすのも、意思の指令が末端のそこまで届かないばかりか、体が鉛のように重くて、容易では無くなっていた。
嗚呼、とうとう自分の最期が近いのだと悟った。 
「・・・ごめん、ごめんな、幸村・・・やっぱり、俺・・・駄目だ。」
 はらはらと美しく泣いている政宗はそう告げて、命の次に大切であろう刀を一刀、鞘からすらりと抜いた。磨き上げられた刃が鈍く光る。背筋が凍るほど綺麗な切っ先、それを。
「あんたがいないこの世では、俺は息が出来ねえ。」
 泣き笑いの政宗は、そう酷く優しく囁いて。そして。
―――え。
 目の前で信じられないことが起きて、意識白濁としていたはずの幸村は目をカッと見開いた。
 ザクッッ。
耳を塞ぎたくなる、躊躇無く急所である左胸、まっすぐ心臓を狙い、身を深く抉る生々しい音。
 新たな鮮血が、土砂降りの雨のごとく幸村の体の上に勢いよく降り注ぐ。
眼前が赤黒く染まって、それはこの世で一番見たくない光景だった。
愛する人が、自分の身を傷つけている事実。
でも、どうすることも出来ない幸村は、ただただその一部始終を傍観者のごとく見ているしか出来ない。
―――政宗殿っ・・・。
 叫びたいのに、そんな彼を止めたいのに、無常にも声は体内に逆に吸い込まれてゆく。
 ドサリ。
「幸・・・村、一緒に・・・・。」
 政宗の身体が自分に重く覆いかぶさって、手がゆるりと重なって、最後の力を振り絞ってぎゅっと握られて。
―――政宗殿・・・っっ。
 自分の意思とは反して、意識が急速に遠のいてゆく。真っ黒に、黒だけに塗り潰されてゆく。
「・・・一緒に、逝こう・・・。」
 耳元で声が聞こえる。それは、甘美な誘う声だった。


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あきゅろす。
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