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小説
その2
 そのまま甲斐の居城まで飛んで帰って、間髪入れずの佐助の機関銃のごときお小言攻撃に、幸村は息つく暇もなく。
「なーに襲われてんのっ、俺様が助けなかったら、絶対やられてたよ、分かってんの?」
 仁王立ちの目くじらを立てた佐助は、寿命が縮まるほど心配した分くらいは、強く言ってやらないと気が済まなかったのだ。
「す、すまぬ・・・。」
 殊勝に幸村に謝られて、なんだか絆されてしまった佐助は、ふうとため息をつきながら、苦笑気味に表情を緩ませた。 
「独眼竜に旦那だって、ばれてないの?大丈夫?」
 か細い幸村の肩に自分の上着を着せてやりながら、佐助は幸村の顔を覗き込む。
「ああ・・・それは多分、大丈夫だと・・・。」
「そう。万が一のために女体化させといて良かったよ。」
 はあと佐助は盛大にため息をついた。
「え?これは佐助の趣味では無かったのか?」
 きょとんと幸村は首をかしげる。そんな主に、佐助はコントみたくこけそうになった。
「あのねえ、趣味だけで、旦那にこんな格好させるわけないでしょーが。旦那の顔が東も西も知れ渡っているから、正体を見破られないようにとの、俺様の苦肉の策なんだよ・・・。」
「でも・・・佐助、さすがに・・・この格好は恥ずかしいのでは・・・。」
 もじもじしている幸村の格好を横目で確かめて、佐助もああ、と、頭をぽりぽりとかく。
「うーん。この前、越後の春日山城にいったときに、ちょいとばかし、かすがの戦闘服を一着借りただけなんだけど・・・。」
「こ、これっ、か、かすが殿の服であったのか?こ、これ・・・。」
 ボボッと、幸村は、自分の身を改めて確認して、瞬間湯沸かし器のごとく顔を赤くしてうろたえる。何を想像したの、と、佐助は苦笑いしながら、そんな中学生みたいな反応の幸村の首元にフッと何かを発見して、瞬間、詰め寄ってそれを引っ張った。
「・・・って、ちょっとちょっと、六問銭つけたままじゃん。これじゃ、すぐに旦那だってバレバレじゃんか。何より・・・あの独眼竜は聡いんだから・・・次からは外す事!あと、1人で奥州には行かない!今度からは俺様が一緒に行くからね。」
「何故、奥州は駄目なのか?何故だ?」
「もう・・・どこまで鈍いんだよ・・・。あんなにはっきりと醸し出してんのに、分からないのは当の本人達だけかよ。」
 語尾を投げやりに、佐助は天井を見上げながら、額に手をやる。
「え。」
「こんな格好の旦那を独眼竜の前に1人で出すなんて。鴨が葱背負ってやってきたようなもんなの!」
「え、・・・そうなのか?鴨・・・葱?」
 意味がまだ分かっていない幸村は、あまりの佐助の剣幕に押されつつ、目を真ん丸くしている。
「あと・・・あまりぺらぺら大事な事を敵に話しちゃ駄目だよ!それに・・・間違ってるし。」
「何と?」
「今、あの宝ものを探しているのは、お館さまの病を治すためじゃなくて、病に臥せっているお館様の願いを叶えるだめでしょう?お館様が探しているものを旦那が代わりに探しているんだよ。大切な命令なんでしょ?」
「うむ・・・。」
「分かったら、明日に備えて、今日はもう寝ること、いいね。次はかなり西に行くんだから。ここに着替え置いといたからね。ちゃんと着替えて寝ること、風邪引くからね。」
 ポンポンと畳んだ着物を叩いて、佐助は一つ一つ子供に教えるように言った。
「・・・分かった。」
 素直に頷いた幸村を確認して、部屋から出てゆこうと背を向けた佐助だったが、襖の前で不意に足を止めて、ボソリと小さく呟いた。
「もう、心配させないで。」
「・・・佐助・・・。」
「おやすみ。」
 佐助はそれだけを言い残すと、そのまま振り返ることなく襖を閉めて出てゆく。
 幸村は佐助が出て行った襖を、しばらく見続けたままで。
今日は色々なことがありすぎて、なんだかいつまでも目が冴えて、眠れなかった。


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