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鋼の錬金術師‡長編書庫
クリムゾン†:24

…24、北の道



バーミリアムの街を出た四人は、一路北のドラクマとの国境を目指して進む。

バーミリアムから北に進むと、すぐに東方から北方の区域だ。

秋から冬に入ろうとしている時期になっているので、もう風は冷たいものになりかけている。

道の両側に広がる麦畑では、黄金色の麦が収穫されていた。

ハラハラと葉を散らす木々の間の道を抜けて、ホーエンハイムを先頭に、カルマンドロ、エド、アルは遠くに見える山脈を目指す。

「もう、ブリッグズの山々にはうっすら雪がふり始めてるな。
急がないと、山越えが難しくなりそうだ。」

ホーエンハイムは目の上に小手をかざして、畑や、森の向こうの青い山々を眺めた。

たしかに手前に見える山々は、青くかすんでいるが、重なって遠くに見える山々の山頂付近にはうっすらと白い筋が入っている。

一行は日がでている日中帯は、ほとんど歩き通しだった。

日が傾き、影が長くなりかけた辺りで足を止め、道脇の森の中で野宿することになった。

木々の間に開けている場所を見つけ、野宿の準備を始める。

「近くに小川もあるみたいだ。
アル、ちょっと行って魚でも探してこようぜ。」

辺りから枯れ葉をかき集め、寝床の準備ができるとエドはアルに声をかけた。

「おお、それはいいな。
大物期待してるぞエドワード。
じゃあ焚火の準備しておくからな。」

ホーエンハイムがそういったが、エドはアッカンベして返した。

エドとアルは、そこらへんの蔓草(つるくさ)から魚籠(びく)を錬成すると、野営地から少し行ったところにある小川に向かった。

絶え間無い水音がする方をのぞくと、小川は岩場で小さい滝を作っていて、滝壺は岩で囲まれた水辺になっていた。

「お!
お誂え向きだな。
でかいのがいそうだぜ。」

エドとアルは、木の枝と蔓と錬成したツリバリで即席の釣竿を作り、水面に自分の影を落とさないようにしながら滝壺がつくる波の間に釣り糸を垂らした。

あまり待たずに、エドの釣竿に反応があった!

「よしきた!」

エドがぐいっと竿を引く。
波間から虹鱒が鮮やかに踊り出し、空に飛沫を飛び散らせた。

こんなことをしばし続け、夕焼けのころには魚籠の中は立派な虹鱒が三匹入っていた。

「よーし、こんなもんだろう。
早く帰らないと暗くなりそうだな。」

夕日のなかエドとアルが急いで魚籠を抱えて戻ると、すでに焚火が焚かれていて、カルマンドロとホーエンハイムが火の世話をしていた。

「おお、帰ってきたか、どれどれ、なかなか立派な虹鱒だな。」

ホーエンハイムはそういうとアルから魚籠をひょいと取り上げる。

「あ!こら!
テメーの分なんかねーよ!」

エドが噛み付くが、ホーエンハイムは笑っている。

「別にかまわんが、おまえも生のままじゃいやだろ?
ちょっと一手間かけるだけだ。」

そういうと、ホーエンハイムは取り出したナイフで鮮やかに虹鱒をさばきだした。

腹を裂いて内臓を取り出し、中にたっぷり香草を入れて塩を振り、一匹ずつ大きな木の葉で包んだ。

それをまた泥でくるみ、掘った穴のなかに入れて浅く土を被せ、薪を組んで、もともと焚いていた焚火から火をもらい、上で新しく焚火を焚く。

「これでしばらく待てば、魚に火が通る。
それまではひとまず休憩だな。」

なかなかの手際のよさに、エドとアルは見入ってしまっていた。

ホーエンハイムは自分が用意した枯れ葉の寝床に腰を下ろす。

カルマンドロとエドとアルとホーエンハイム、四人で焚火を囲み、二つの焚火を眺めれば、辺りはだんだんと暗く闇が迫ってきた。

ゆらゆらと爆ぜ燃える焚火だけが、四人を照らしている。

「…カルマンドロさん」

やがて火を見つめていたエドが、静寂を破く。

「…なんだろうか?」

カルマンドロもエドに答えた。

「教えてくれ。
なんであんたが行方不明になったのか。
なんで、こいつと一緒だったのかを。」

カルマンドロはフードを上げて顔を焚火の明かりにさらしている。
疲労を強くたたえているが、顔立ちは端正で知的そうな人物であった。

「…どこから話せばいいものか。
そして、君はどこまで知っているのか…。
ウィルファットを作り上げた錬金術師の事は知っているのか?」

エドは頷く。
そして今まで調べた事をざっと話した。

ホーエンハイムとカルマンドロは黙って聞いていて、エドが話終わったあと口を開いた。

「なるほど。
よく調べたね。
あのバーミリアムでの出会いは、偶然ではなかったのかもしれないな。」

カルマンドロは座ったままエドとアルの二人を見た。

ホーエンハイムも頷く。

「エルビウムさんの事は残念だった。
軍に公式に保護されたので、もう大丈夫だろうとガードをといてカルマンドロ氏に会いにきてしまったのだ。
カルマンドロ氏は誰よりも危険にさらされている。
一刻も早く会うべきだと考えていたのだ。」

エドはホーエンハイムを見た。

「だけど、カルマンドロさんは軍には生死不明だと思われてる!
あの事故から行方不明だからな。
それでもエルビウムさんより危険度が高かったのか?」

ホーエンハイムは頷いた。

「皮剥ぎ連続殺人鬼はお前たちが捕まえただろ?
だからすぐには次の手で仕掛けてはこないと思ったんだ。
その間にカルマンドロ氏を逃がしておくべきだと考えて、その日のうちにウィルファットを出た。

お前たちからの情報が新しいうちにな。」

エドはそっぽをむいてカルマンドロを見た。

「それで、なんで行方不明なんかになったんだ?」

カルマンドロは唸るように話だした。

「君達が言ったように、五年ほどまえ、街で力を持っていた家の当主が次々に死んでいた。
はじめは偶然かと思ったが、そのうち人為的なものだとわかったのだ。

あの事故が起きる前から、私と妻は危険な目に襲われていた。
我々は狙われていたのだ。

ことの始まりは、とある当主が肺ガンで亡くなった時からだ。
その当主は度重なる強度の薬の投与で、遺体の変質が早く、三日も間をおかずに葬儀をあげる事となってしまった。

そして、私を含めその当日の当主達は見た。
死亡した体に浮かび上がる、あのアザを。

それまで、当主たちは三日間にそのようなアザが現れるなんて知らなかった。

第一、城を手放した我々の中で錬金術師は私だけ。
もしも文献があっても理解できなかっただろう。

私はそのアザを調べはじめた。

各家をまわり文献をひもといた。

アザは暗号だったし、調べていくうちに各家ごとで少しずつ内容が異なる事がわかったのだ。
それはとある錬成式だった。

しかし、そうしている間に一人目の被害者がでた。

私が前日に訪ねた家の当主だった。
そのあとも私が訪ねた当主が次々死んだ。

次はお前だ。

そう言っているように。

そして、ついに、妻が襲われ、私が襲われた。
その時見たウロボロスの印は忘れないだろう。

どうにか命かながら逃げおおせたが、時間の問題だった。

私と妻は逃亡を計画した。

医師でもあった我々は、月一で無医村を訪ね回っていた。

そこで事故死に見せ掛け、行方をくらませる計画だったのだ。

計画は実行されたが、先を読まれていた。

馬車に細工をほどこされ、我々は谷底に転落。
そこで妻は本当に死んでしまったのだ。

そして私は、妻のアザを見る事になった。
我々の中にも、その呪いがかかっていると痛快したよ。

そして、妻のアザで私は始祖が残したアザの意味をすべて理解した。

皮肉なものだ。
求めた事で命を狙われ、逃れようとした事で妻をなくし、妻の死で求めた事の真相を知るとは。

私は妻の死や、死んだ当主たちの事を忘れないため、己の体に真相を刻みつけた。

目元にあったウロボロスの印は、アザとともにすべての家に共通で現れるマークだったんだ。

私は、始祖ウィルファ-ドはウロボロスの組織から、アザにこめた錬成式を手に入れ、隠しながらも警告していたのだと思う。

これは禁忌だと…。」


「ほい。
魚焼けたよー」



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続く

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あきゅろす。
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