鋼の錬金術師‡長編書庫
金色の千年狼16(完)
あれから半世紀以上も、戦争が続いた。
至るところの土地を侵略して領土を広げていたアメストリス。
その大国へ真っ向から反旗を翻した俺に、侵略されて併合されてしまった国々が賛同し、各地で独立戦争が勃発した。
俺は独立を望む人の先頭にたち、戦場の矢面で戦った。
おかげで今や英雄扱いだ。
別に俺は英雄になりたかったわけでも、独立したかったわけでもなかったんだが…。
ともかく、戦争が半世紀以上もかかってようやく終結し、今やアメストリスと言う国はない。
至るところの招待をはねのけて、俺は自分の城に…
いや、城跡に帰ってきた。
戦禍に巻き込まれ、幾度も火を放たれた俺の城は、もはや見るも無惨な瓦礫の山になっていた。
多少、塀の一部や壁がのこっているものの、何もない。
安置していたロイも、とっくに焼けて朽ち果ててしまい、骨の欠片もわからない。
俺はロイが死んだ石畳の上に立ち、瓦礫の山を見ていた。
これからどうしようか。
自分で枷を嵌めたこの体。永久に俺は死ぬこともできない。
でも、もう一人なのは耐えられない。
寂しい。
また、お前に会えるその日まで、ここで泣き泣き待ち続けようか…。
いや、違う。
例え誰かが来たとして、それはロイじゃない。
何千年待っても、お前にはもう、会えないんだ。
「会いたいよ。
名前、今度は呼んでいいからさ…。」
つい、瞳から涙がこぼれた。
いけねぇ。
俺はごわごわする連合軍の黒いコートの袖で目元をぬぐった。
誰もいなければそのまま泣いても良かったんだが、背後で人の気配がしたのだ。
英雄と名前ばかりが有名になり、俺を狙うアメストリスの残党は後を絶たない。
どうせまたその類いだろう。
または、俺が手にかけた兵隊の家族とかな。
今のところ殺気はないが、油断はできない。
いくら不老不死だといっても、刺されれば痛い。
じゃり、じゃり、と地面を踏みしめる音が聞こえる。
相手は一人のようだ。
いまだに城の残骸の方を向いている俺の、後ろ十歩ほどのところで立ち止まった。
魔力は俺を守るように待機させ、いつでも反撃できるようにする。
俺と後ろの人間を、風が撫でていく。
「ここは、貴方の城だろうか。」
落ち着いた男の声。
俺は知らずに体を震わせた。
俺はその震えを相手に悟られないように、言葉を返す。
「…そうだ。
かつて俺の城がここにあった。
今はもう見る影もないけどな。」
後ろからの声は、自分が望んだ願望の性で、どうやら湾曲して聞こえているらしい。
俺は後ろを振り向きたい衝動を拳を握って耐えた。
絶望するのはもう嫌だ。
後ろからの声は続ける。
「私は、長い旅をしてここまできた。
どうか一晩泊めてくれないだろうか。
軒先でもかまわない。」
どうしてこんな甘い妄想が、俺にははっきり聞こえるんだ?
俺は抑えきれなくなって、顔だけで少し横を向く。
石畳に落ちた影が、確かに誰かそこにいることを証明していた。
俺より高い背丈のシルエットが見えて、ついに我慢できなくて俺は振り向いた。
黒い髪、黒い瞳、
この半世紀以上の年月が流れても、
忘れなかった姿がそこにいた。
俺は驚き、目を見開く。
こんなの夢だ。
幻だ。
だって…。
ロイが目の前にいるなんて
俺の錯覚以外に何があるんだ?
「…ロイ…」
俺が思わず名前を呼ぶと、その黒い瞳がスッと笑った。
「ただいま。
千年狼。」
偽物だろうが、俺の白昼夢だろうが、
かまわない。
あと一瞬消えなければ
なんだっていい!
「ロイ!」
俺は佇むロイに抱きついた。
どうしよう涙が止まらない。
止まらないよ!
ロイの生身の腕が、確かに俺を抱きしめかえした。
「どうしてあんたが、ここにいるんだ?
何で生きて…」
ロイは俺の頭を撫でた。
「実を言うとわからない。
君の魔力で私は支えられながら死んだから、かもしれないが、私は新しい肉体に…言わば転生したのだと思う。
君のそばにいたいと願って死んだから、かな?
生まれ変わる前の記憶があるまま、私は生まれたんだ。
ずっと君に会いたかったよ。」
生まれ変わりなんて信じてない。
だけど今はどうでもいい。
ここにロイがいるのは、事実なんだから!
「お帰り、お帰りなさい。
ロイ。」
「ただいま、エドワード。」
★★★★
昔むかしのその昔。
風光明媚な丘の上に、俺の城はあった。
父さんは、魔女に無理やり魔法をかけられて、醜い野獣になったが、母さんの愛で人の姿を取り戻したらしい。
俺はそんなものはいらないと思っていた。
俺は、自分に魔法をかけて、美しい獣になった。
永遠を生きられる体を手にいれた、綺麗な姿を手にいれた、思い通りになる魔力も、だけど、やっぱり寂しかった。
寂しくないと自分自身に嘘をついて、強がってみせた。
だけど、嘘をついている時点で、俺は完璧なんかじゃなかった。
俺はエドワード。
永劫を生きる、美しい獣。
そしてもう一人、何時の時代にも、俺が寂しくないように、生まれ変わりそばにいてくれるようになった、黒髪黒目の城の住人、ロイ。
人は俺たちを、
二匹の千年狼
と呼ぶ。
金色の千年狼
完
あとがき
皆様、長々お付き合いありがとうございました。
スペクタクルP様のThe Beastから妄想を広げた、金色の千年狼はいかがでしたでしょうか。
原作では考えられないハッピーエンドにしてみました。
うん、もっと文才があったら、こんなべたべたの最後にならなかっただろうに。
申し訳ない。
書いてる途中からコイツらがかわいそうになってきちゃって。
ハッピーエンドにしたくなってしまいました。
少しでも読んで楽しめた方がいたなら、僕はそれで満足です。
お付き合いありがとうございました!
参考
The Beast(スペクタクルP)
The Beast(レン・カバー)
The Beast(カイト・カバー)
The Beast(テト・カバー)
The Beast(戦場軍人カバー
The Beast〜僕の罪〜
(葵オオルリ)
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