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鋼の錬金術師‡長編書庫
金色の千年狼13

あー、なんでこうなっちまったかなぁ。

ロイの誕生日に気まずくなったから約一週間。

仲直りもできず、なんとなく会話も少ないまま過ぎてしまった。

二人しかいないのに、気まずいのは結構こたえる。

一方、俺の気持ちとは対照的に、庭には春が訪れていた。

庭師の記憶が手入れした花ばなは、今年も見事だ。

先ほどからロイは窓辺で窓の外を眺めている。

うー、偉大なる千年狼が、たかだか気まずさに負けてたまるか!

北国の春は短いのだ。

今、外に出ないでどうする!

「おい!お前!」

俺はロイの前で仁王立ちになり、腰に手を当てて名前を呼んだ。

「…なんだい?
狼。」

ロイは視線を外から俺に移した。

良かった。
無視はされなかった。

「こい!」

俺はロイの肩を掴んで、そのまま庭に出た。

うららかな日差し、温かい春の風、かぐわしい花の色と香り。

冬の気持ちのままだった俺とロイに、新しい季節が吹き付けた。

俺はロイを引っ張ったまま、花の咲き乱れる庭へおりる。

「狼、私をどこへ連れていくつもりなんだ?」

ロイはふらふらしながら俺に連れられて歩いている。

そういえば、一週間前のダンスから、ロイが急に弱りだした気がする。

あの時、魔力、抜きすぎたかな…?

気まずくてロイの体の魔力の管理、直接細かくしてないしな…。

俺は、庭の小道の途中で足を止めた。

道沿いでは、花が色を競いあっている。

「窓から見たんじゃ、わからないだろ?

とくに春の匂いは。」

ロイはぐるっと周りを見渡す。

「たしかに、もう春だね。

でも、黙って連れてきてくれるのは、あまり紳士的じゃなかったな狼。」

「……………ここでなら謝れるかと思って。」

ロイが驚いたような顔をした。

俺は意を決してロイに向き直る。

「その…。

この前のダンスした時から、なんか気まずいじゃないか。

この城じゃ、お前と俺だけだろ?

ほら、いつまでも気まずいのも、気持ち悪いじゃないか。

あの…、あれだろ?

俺がお前のこと嫌いだっつったからだろ?

だからその…、あんときはカッとなっちまったけど、俺、お前のこと、本当は大嫌いってほどじゃないぜ?

ただ…、お前に妄想抱いて欲しくなかったから、言ったんであって。

本当に嫌いだったら、城からけりだしてるし。

だからさ、あの、ごめん、機嫌治してくれよ…。

この俺が、頭下げてるんだからさ!」

俺は恥ずかしくて目を閉じてロイに言った。

「…」

ヤバい。
なんも言ってこねぇ。

俺は、恐る恐る閉じてしまっていた目を開けた。

目の前に立つロイの顔は…。

眉を寄せて、歯を食いしばり、目元を歪ませて…。

一瞬泣いてるのかと思った。

実際は泣いていなかったが、いつ涙が流れ落ちてもおかしくない。そんな表情だった。

俺はその顔を見た時、ギクッとしてしまった。

嫌われてたのは俺の方か!?

ロイが何かを言うために唇を動かした時、ロイは小さく咳を…

「え…。
お前…血が…」

俺が思わず呟くと、ロイはハッとして口元に手を当てた。

一筋顎に流れた血が、ロイの指を染める。

血に間違いなかった。

俺が驚いて立ち尽くしていると、突然、ロイの姿が近くなった。

「狼…!」

避ける間もなく、俺はロイに…、だ、抱きしめられていた!

「な、へ?
あ、おい!?」

俺は何か恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかった。

だが、抱きしめてくるロイは、そんな雰囲気は一切なかった。

「…お願いだ…狼…。

ここから……逃げてくれ…。

私を…嫌ってくれ…っ!」

きつく抱きしめられているから顔は解らなかったが、ロイの声は震えていた。

そして俺が言葉を返すより早く、ロイは俺を突飛ばし、体の向きを変えて走った。

あいつ、走れないんじゃなかったのか!?

この小道は、城と庭を繋いでいる道なので、ロイは城に向かって逃げていく。

その足元はフラフラと危なっかしく、今にも倒れてしまいそうだが、その速さは人間とは思えないほど速い。

あんなに走ったら、また血を吐くぞ!

「待て!」

俺も走って追いかけ、同時に魔力を伸ばしてロイを捕まえようとした。

ロイが城の正規の入り口の大扉前にある、石畳の広場に抜けた時、やっと魔力が追い付いた。

ロイの足をまず止めようと、魔力の指でロイの足をさわった。

…どういうことだこいつは。

ロイの足は一応生身なのだが、肉の中にある骨は人口の焼き物…セラミックだ。

それに今、無数のヒビが入っていた。

足だけじゃない。

ロイの体の至るところが、ミシミシ、バキバキ、嫌な声を上げている。

待て、待て待て待て!

止まれ、そうしないとお前は…!

走りながら、ロイがまた咳き込む。

そして、さっきとは比べものにならないほど、口から血を吐いたのが見えた。

どうにか足を前に踏み出したものの、ついにその足に限界が訪れた。

俺は魔力を通して、ロイの両足の作り物の骨が砕ける音を聞く。

ロイの足がまっすぐでなくなり、前の方へ倒れるようにバランスを崩す。

ロイが吐いた血が先に石畳に当たり、不作法な赤い模様を描いた。

「危ない!!」

俺は魔力でロイが倒れるのを支えるが、ロイを止めるためだけに伸ばしていた魔力だったため力が足らない。

俺がロイのところにたどり着き、肩に触れたところで魔力が力尽きた。

俺は結局石畳に倒れるロイの頭ぐらいしか、支えてやることはできず、一緒に倒れてしまった。

ロイは浅くて早くて荒い息をして、ぐったりと俺にもたれかかっている。

「しっかりしろ!

今、助けて…」

俺はロイの体に魔力を継ぎ足しにかかる。

ロイの体に魔力で触れてわかったが…。

ロイの身体は、急速に弱っていた。

いや、そんなもんじゃない。

普通なら、それでも身体のどこかで生きようともがく希望があるはずだった。

どこにもない。

なんだよこれ、なんだよこれ!

まるで…、
まるで身体がロイを殺しにかかっているみたいじゃないか!



金色の千年狼14へ
続く

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あきゅろす。
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