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鋼の錬金術師‡長編書庫
金色の千年狼12

明るい曲や静かな曲、とうに名前は忘れてしまったが、体が覚えていた曲たち。

俺とロイは、ダンスホールの空間を占領するように、踊り回った。

楽器から繰り出される、リズムに体を預け、互いに息を合わせて。

実を言うと、俺は最初、ステップが踏めるか自信があまりなかった。

何せ久しぶりだからな。

それはロイも同じだったようで、当初は不安げだった。

だが、踊り始めてみれば、俺たちはまるでつがいの蝶のように、軽やかにステップを踏んだ。

時計の針が12時を示した時に、ついに俺たちは疲れて広間の真ん中に二人して倒れこんだ。

「はー!
あー、踊ったなぁー!」

ばったりと天井を見上げて倒れた俺は、隣で同じように倒れているロイを見た。

「流石に疲れたな。
もう三時間以上、踊ってるのではないか?」

ロイも疲れているが、互いにいい疲労感だった。

俺は時計を見ようと思ったが、思い直した。

なんだかそれも億劫だ。

「どうせ俺たちしかいないんだ。

よっぴいて踊ったっていいんだぜ?」

「それは持久戦になるな。

だが、それも楽しく過ごせそうだ。」

俺とロイは、しばらく天井を見上げたまま、息をととのえていたが、唐突にロイが話しかけていた。

「狼。

私は外でたくさんの機械を体に仕込んできた。」

俺はロイが何を言い出したのか訳がわからず、とりあえず相槌を打つ。

「捕虜になった時に、敵に味方の情報を渡さないようにするための装置が私には組み込まれていて、私は…。

思ったままの言葉が話せない時がある。

リミッターを解除すれば、思うまま話すことはできるのだが。」

「?
なら、そんな面倒なもの、外してしまえばいいじゃないか。」

「…いや、リミッターを外せば5分と生きられない。

情報を漏らしたつけは、自分の命で払うことになるんだ。」

やっぱり軍隊ってやつは物騒だな。

「自分が考えたことが話せないなんて。

やっぱり軍隊ってのはいやなやつらだ。」

「そうだな。

…私は、今もその機能のせいで、君にはっきりと言えないことが、たくさんあるんだ。

狼…。」

ロイの指先が、俺の手を探りあて、指を絡めて握った。

「狼、私は、君を…」

俺は驚いて、とっさにロイに視線を向けた。

ロイの眼は深い。

深すぎて、感情を捉えきらない。

「馬鹿言うな!
人間風情が!」

俺はロイの手を振り払い、起き上がって目を背けた。

「狼…。」

今、お前は何を言おうとした?

もし、馬鹿な考えなら、止めろ。

お前には、そんな資格はない。


俺にもな。

「お前は、今の俺を見て、錯覚しているだけだ。
愚か者め。

俺は、お前が何を言おうとしたか知らん。

知りたくもない。

俺は、お前が、


大嫌いだっ!!」

「!」

言いはなった言葉にロイが身動ぎしたのを感じた。

俺はダンスの最中に与えていた余計な魔力をロイから取り上げる。

心のなかがぐちゃぐちゃする。

イライラする。

もうこんな茶番劇は終わりだ!

「俺の気持ちも解らないくせに。

人間が!」

俺は立ち上がってさっさと舞踏広間の扉へ歩いていく。

最低限の魔力に戻ったロイはすぐに立ち上がることができず、どうにか体を起こした。

「待ってくれ、狼!

違うんだ、私は、君に…。」

そこまで言ったロイが、喉を詰まらせたように激しく咳き込んだ声が、俺の耳に届く。

でも、俺は一度も振り向かないで舞踏広間を後にした。



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続く

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