[通常モード] [URL送信]

鋼の錬金術師‡長編書庫
金色の千年狼2

世話がやけるやつだ!

俺は、石像の騎士を操って侵入者を城の中へ運び込む。

侵入者は、浅く不安定な息をしている。

とりあえず、形だけ客間として作っておいた部屋のベッドに横たわらせた。

石像を下がらせてから、シャンデリアに魔力で明かりを灯し、まじまじと侵入者を改めて観察する。

すすけている洋服は、擦れたり、引っ掛けたような痛みが至るところにあり、良い扱いはされていない。

侵入者の顔色は悪く、少しやつれているように見えた。

気道が詰まらないように魔力で呼吸を確保してやると、侵入者はだいぶ安定しだす。

とりあえず死にはしないだろう。

さっき吐いた血が、服にべったりついてるな。

血の染みは魔力でも落としにくいのに。

仕方ない。
シーツを台無しにされても面倒だ。
脱がせるしかないか。

俺が侵入者を除きこんだ時、その黒い瞳がうっすらと開かれた。

顔色がまだ悪いな。
つーか、顔が近い!

俺の魔力で呼吸を確保してやってるからか、呼吸はさっきより楽そうだ。

「…こ、ここは?」

思いの外声が出しやすかったことに驚いたのか、侵入者は、目をぱちくりさせた。

なんだ。
ガサガサ声じゃないと、けっこうカッコいい声してんじゃん。

「俺の城の部屋だ。
一晩滞在させろといったのはお前だろう?」

俺は枕元の椅子に座り直してから、侵入者を睨んだ。

侵入者はまだ体が起こせないのか、横になったまま部屋の中を見渡した。

「…私は…」

「歩き出したら、急に血を吐いて倒れた。
覚えていないか?」

侵入者はだんだん意識がはっきりしてきたのか、驚いた顔で俺を見た。

「君が運んでくれたのか?」

「庭に死体を転がしておいても邪魔なだけだしな。

石像に運ばせた。

それに、俺はお前の滞在を許した。
だから部屋に案内しただけだ。

それよりも、俺はお前の名前をまだ聞いていない。

名乗れ。」

横になったまま、侵入者はうなずく。

「私の名は…、ロイだ。
滞在を許していただけて、感謝してもしきれない。

できれば、貴方の名前も聞かせていただけないだろうか。」

俺は、自慢の髪をかきあげた。

「俺の名前はエドワード。

この城の唯一にして絶対の主!

金色の千年狼と言えば、聞いたことぐらいあるかもな。」

また侵入者…いや、ロイが驚いた顔をするかと思ったが、想像に反して真剣な眼差しで、ロイは俺を見ていた。

「…君が…!」

ふふん!
どうやら、一世紀たっても俺の名声は衰えないようだな!

俺が自分に魔法をかけた時、まだ城には両親が抱えていた召し使いたちがいた。

両親が死んで、彼らを城から追い出した時から、俺のその名前は外に知られるようになった。

それが約一世紀前の話だ。

「俺のその名前は聞き及んでいるようだな。

恐ろしい人喰いとでも伝わっているか?」

わざと鋭い犬歯を見せて噛みつくふりをしたが、ロイは怖がらずに、首を横にふるだけだった。

「いや、とても美しくて強い、永久を生きる獣だと聞いていたので…。

君が…。」

俺は、ロイを嘲笑う。

「ふん、そうは見えないか?
俺は、これでも100年以上いきているんだ。
この城の中でな。」

ロイは少しだけ眉を寄せた。

「この城には、君しかいないのか?」

俺は、その言葉を軽蔑した。

「何で他に余計なものが必要なんだ?

この城には俺しかいない。
城を保つのは俺だけで十分だしな!

俺以外の人物がこの城にいるのは、一世紀ぶりだぜ。」

言った俺の頬に、冷たい感触がした。

ロイが腕を伸ばして、俺の頬に触れていた。

「…百年も城の中で一人だなんて、寂しかったろうに…」

っっっ!!!???

「触るなっ!
無礼者っっ!」

俺は、ロイの手を力強く叩いた。

ロイの腕は、ベッドに叩きつけられるように落ちた。

何だと何だと何だと!?
今こいつは、何て言いやがった?

寂しかった?
俺が?
馬鹿らしい!
自分の城の中で、どうしてそうなる?

こいつは俺を侮辱した!

何てやつだ!

「俺を愚弄するのも大概にしろ!

貴様と一緒にするなよ、たかが人間がっ!」

俺は吠えてロイを睨んだ。

心の底からの怒声を、牙を見せて叫ぶ。

「貴様に、何が解る!!」

こんな矮小な生物に興味を持ったことが間違いだった!

「エドワード!」

「その名を呼ぶな、愚か者!」

俺は椅子を蹴って立ち上がると、黙ってとっとと部屋を出る。

下等生物に心を乱されるとは、なんたる屈辱だ。

あんなやつ、庭でのたれさせるべきだった!

俺は城の廊下を怒りのままに突き進み、玉座にどっかりと座る。

荘厳な謁見の間は、広い。

そして俺だけの空間だ。

静かな時間は、甘美。
一人の時間は、黄金。

これのどこがどこがどこが、
さ、寂しいなんて、
そんな弱い気持ちになる?

完璧な俺に、そんな、未熟な、弱い、不安定な気持ちがあってたまるものかっ!!!

あの劣悪な生物に、何が解る!

そうだ、あんなものにどうして興味なんて覚えたのか!

最初から見殺しにすればよかったのだ。

呼吸の補助をしている魔力を体の奥で爆発させれば、すぐに方がつく。

俺は、ロイの呼吸の補助をしていた魔力を体の奥に差し込む。

体の内側から、粉微塵にしてやる。

あの世で我が身の愚かさを呪うがいいわ!




…………?

俺は、魔力を解き放とうと振り上げた腕を途中で止めた。

俺の魔力の補助がなくなって、ロイがまた喘ぐような呼吸になったことを感じる。

問題はそこじゃない。

ロイの体の血管を通して、内側の隅々まで魔力を流し込んだ。

だから、俺は今、ロイの体内を容易に探ることができる。

なんだ、こいつは。

本当にぼろぼろじゃないか。

いや、それよりも、問題なのは、ロイの全身を型どったはずの俺の魔力は、
人の形をなしていなかった。

こいつ、本当に何者だ?


金色の千年狼3へ
つづく

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!