W 「朔!おーはーよー」 ギリギリで楽屋に入っていった朔夜に、間延びした挨拶をするのはshinだ。 珍しく遅刻しないで、ソファで雑誌を読んでいる。 優が見当たらないが、多分打ち合わせだろう。 ziellのメンバーは音楽番組の収録の為テレビ局に来ていた。 新曲の初披露である。 朔夜は向かいのソファに座ると、書類を読み始めた。 しかし、しかめ面はいつも通りだが、内心先程から落ち着かない自分に気づいていた。 原因は薄々分かっている。 今日、尚哉がいつも話している“慎兄”を初めて見た。 …尚哉が自分以外に向ける、あの安心しきった笑顔も。 そこまで考えて、朔夜は考えるのを止める。束縛など自分らしくない。 「朔夜さん、お願いします!」 スタッフに呼ばれる。 引っかかった心のまま、朔夜は楽屋を出た。 …… 「本番始まります!10秒前…」 ようやく番組が始まった。美しく着飾った歌手やアイドル。 やはり、その中でもziellは一際目を引いた。 女性やアナウンサーまでもが、彼らを気にしているのが分かる。 しかし、朔夜はそんな事は気にもとめず、淡々といつものように質問に答えていく。 幾度と無く聞かれた質問や、私生活の事…トークは進み終盤に差し掛かる。 「ところで…朔夜さんは、今一番行きたい所は何処ですか?」 「カフェ」 朔夜の意外すぎる答えにアナウンサーや優やshinまでも、ポカンとしている。 朔夜は心の中で舌打ちをする。 他の2人への質問の間に、ぼーっと尚哉の事を考えていたら思わず口をついて出てしまった。 …何やってんだ 意外すぎる言葉に周囲が湧くが適当に流しトークは終わった。 ステージに移り、いつものように深呼吸して歌い出す。 ……〜♪ 周りがシンと静まり返る。 ここにいる全ての人がziellに注目していた。 朔夜は歌うことに集中する。 あの光景は、忘れようとした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |