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日常
「留守の間、何も問題など起こさず大人しくしてろ」
父はそう言い残して家を出て行った。
いつものごとく、何の用事があるのか、どのくらい留守にするのかなどという説明はない。
もともと、自分の仕事に関しては多く語らない父だったが、多分、どのくらいで帰ってこられるかなんて、分かってないのだろう。
父が依頼を受ける仕事といえば、面倒なものが多いらしいから。

そして、一人残された僕はといえば、かなり重要な仕事があった。
仕事自体は難しいものではない。
ただ、働いている場所が重要なだけで。

「おはようございます」
僕は城の門番に頭を下げた。
「おはよう、シリウス」
そう声を返してくれたのは、甲冑に身を包んだ背の高い男性、ケインズだ。彼の大きな身体は、威圧感のある門番としてぴったりだと思う。
「親父さんは今日は不在か?」
ケインズは一人で城に入ろうとする僕を見て、訊いてきた。
「はい、頼まれた仕事があるみたいで」
僕がそう言葉を返しながら笑うと、彼も笑う。
「一人じゃお前も大変だろうが、頑張れ」
「はい」

僕と父は、この国の王宮の庭師として働いている。父が不在の数日間は、僕が巨大な王宮の庭の手入れをしなくてはならない。慣れた仕事であるとはいえ、一人でやるのは大変だ。
とにかく、僕は門を開けてもらって中に入った。
一日はあっという間だ。
やることはたくさんある。
庭を全て見回り、樹木の葉が伸びていれば刈り、掃除し、庭のあちこちにある装飾が傷んでいるようであれば修理する。
いつものように僕が自分の仕事をこなしていると、やがて城内が少し慌ただしい雰囲気であることに気がついた。

「何かあるんですか?」
城の厨房の片隅でお昼ご飯をご馳走になっている時に、僕は顔馴染みの料理人に訊いてみた。すると、彼女――セーラは仕事の手をとめ、目をキラキラ輝かせながら言った。
「舞踏会があるのよ」
「舞踏会?」
「そう」
セーラは両手を自分の目の前でしっかりと組んで、遠くを見るような目つきで続けた。「ジュリエッタ様のお婿さん探しね」
「なるほど……」
僕はそれに頷いたものの、あまり興味はわかなかった。
僕のような平凡な庭師は、舞踏会なんてものには無縁だし、お客さんで城内が溢れかえる時には庭を綺麗にしておくことだけが最優先事項。

この時はそう考えていたから、まだ気楽だったのだ。

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