304 チェシャ猫にも死にたくなる時があるのかと思うと何とも不思議な感じがする。 「死ぬんなら1人で勝手に死ね。俺を巻き込むんじゃねぇよ」 そうキッパリと言いきるとチェシャ猫は小さく噴き出した。 「ヤだよ、だって1人で死ぬのは寂しいし〜。折角死ぬんなら誰かに殺されて死ぬ方が俺には相応しいと思うしー」 何でもない事のようにそう言って面白そうに笑うチェシャ猫に俺は眉を寄せる。 「他の奴に頼めよ。俺は殺し屋じゃねぇ」 「だってお前も好きでしょ人殺し。 俺に喧嘩を売る馬鹿を苛めてる時と他人の命を無理矢理奪う瞬間、あぁ…俺は間違いなくイカレテルって再確認するんだよねぇ。 だから俺、今まで俺が殺した奴の顔と名前と最後の言葉全部覚えてんの。ラクハは覚えてなさそうだよねー」 枕に頬をすりつけながらチェシャ猫はそんな事を零した。 顔と名前を覚えていると言う事はチェシャ猫でも悪夢に苛まれたりするんだろうかとぼんやりと考える。 「別に好きじゃねぇよ。特別嫌いでもねぇけど。俺が唯一記憶に留めているのは1人だけだ。他の奴らの記憶は曖昧だな」 何故チェシャ猫にこんな話をしているのか自分でも不思議だ。 ただ何となくチェシャ猫は俺を非難する事も咎める事もしないだろうと思った。 「まぁラクハとハイジの場合、1人目が強烈だから後は誰を殺しても同じなのかもね。ねぇお兄ちゃん、俺を殺そうとした時ってどんな気持ちだった?」 お前表情薄いからわかんねぇ、と愚痴を零しながらそう尋ねてくるチェシャ猫に俺はさっきの出来事を思い出す。 「どんな気持ちって…別に、お前の洞察力に感心してたんだよ」 「…え、それだけ?もっと何かねぇの?って言うか感心しながら人を締め殺すってどうなのよ」 「…お前にだけは言われたくねぇよ。そもそもそこまで関心がねぇんだよお前に」 チェシャ猫を鬱陶しく思いながら医務室の入り口に目を向けそう言うと、うわ、さいてーっ、こいつさいてー、今の聞いたおじいちゃんっ、と骨のような医者に同意を求めるチェシャ猫の声が医務室に響く。 煩わしいチェシャ猫の声を聞き流し、医務室にチェシャ猫を監禁して置けば明日は楽だな、と明日の予定を組み立てながら俺はハイジが来るのを待った。 BackNext [戻る] |