143 「今の男は囚人なのか」 黒ずくめの男が薬を受け取り立ち去って行くのを見送った後医者にそう尋ねると医者は囚人ですよ、と軽い返事を返した。 「彼は普段は独房に籠もりっきりなんですよ。仕事がある時にだけ独房の外に出て、仕事を終えてまた独房に戻る時にいつも薬を取りにきているんです。彼は足が悪くてねぇ」 独房に居るって事はどこのエリアにも属していないと言う事なのだろうか。 「仕事って何をしているんだ?」 あの格好で農作業や家畜の世話をする所を想像するのは難しい。 「それは直ぐにわかる事ですから。それよりも君達は早くネバーランドに戻ってフック船長にこの事を知らせてあげてください。 ここで死人を平等に憐れみ、その死を嘆くのは彼ぐらいですからね」 あの黒ずくめの男と死人とエドアンから関係性が見いだせないまま俺達は医務室を後にした。 ネバーランドに戻る途中、ずっと唸っていたハイジが急に大きな声を出した。 「思い出したよ兄ちゃん。さっきの人、前に読んだ本に載ってた」 「さっきの男が本に載ってたのか?」 俺がそう返すとハイジはうん、と胸のつかえが取れたようにスッキリした顔で頷いた。 「確か占いの本だったと思う。絵が沢山載ってて綺麗だったからよく覚えてる」 確かにあの不気味な男が占い師だと名乗ったとしても違和感はねぇけど。 「その絵、他の奴と違って嫌な感じがして俺ちょっと見るの怖かったんだ」 ハイジがどうして占いの本を見て怖がったのか、その理由はすぐにわかった。 ネバーランドの入り口で俺達の帰りを待っていたエドアン達に医務室での出来事を話すとエドアンの顔つきが変わった。 「クララ、俺が戻るまでネバーランドを頼むな」 「ちょっと待てよ、一体何なんだよ」 深刻な顔をしてネバーランドを足早に離れようとするエドアンの腕を捕らえそう尋ねると、エドアンは俺の腕を優しく解きながら俺の目を見つめ口を開く。 「お前が会った黒ずくめの男の仕事は死体を火葬し、灰を海に葬る事だ」 エドアンのその言葉の意味する事は考えなくても理解出来た。 「死人が出た時にだけ姿を見せるその男には通り名がある」 エドアンの発したその名を聞いてハイジの話の説明がついた。 ハイジが見た占いの本はタロット占いの本だったんだろう。 そして、ハイジが嫌な感じがしたと言うタロットカードに描かれていたその絵は“死神”だ。 BackNext [戻る] |