302 「…もう嫌お前、何なんだよ。俺は…お前が死ぬんじゃないかって…思ってたってのに、…お前元気だし。俺の心配なんかしてんじゃねぇよ。さっさと医務室行けよ馬鹿」 俺を睨みつけて悪態をつくゼロの表情に少しだけ明るさが戻った事に俺は胸を撫で下ろした。 馬鹿って言うのは納得いかないけど、ゼロの悪態は元気な証拠だと思うから許してあげるよゼロ。 ゼロに元気が戻ったので俺は体を離して立ち上がった。 「待っててね、お医者さん連れてくるから」 自分のジャケットを脱いでゼロに掛けながらそう言うとゼロに服の裾を掴まれた。 「医者なんて俺には必要ねぇ。こんなの大した事ねぇ、だから他の奴に絶対に言うなよハイジ」 ゼロが人に知られたくない気持ちは俺にもわかる。 矛盾してるけど、心配されるのは凄く嬉しいけど、俺は兄ちゃんに心配をかけたくないんだ。 「大丈夫、ゼロが嫌なら言わないよ。自力で房に戻るの無理そうだったら無理せずにここに居て。肩貸すから」 俺はゼロにそう言い残して医務室へと急いだ。 ――――――――――― ◆◆ ーside RAKUHAー 「これはまた何て酷いっ…君にこんな事が出来る君以上に危険な人物が居ると思うとゾッとしますねぇ」 「それはコイツに言ってやってよおじいちゃん。やったのコイツなの」 チェシャ猫がベッドに横になったまま俺を指差しさらりとそう言うと、医者は口元に震える右手を持っていった。 「あなたは本当に常識ある囚人なんですねぇ、殺しかけた人間を律儀に医務室に連れて来るなんて…ぅっ…あまりに感動して涙が出そうですよ」 涙ぐんで俺の顔を見つめてくる医者に返事を返さない俺の代わりにチェシャ猫が返事をする。 「それってなんか違くね?おじいちゃん、俺いつまでここに居なきゃなんねぇの?俺医務室嫌ーい」 チェシャ猫のその言葉を聞いて、ハイジがなかなか姿を見せない事に落ち着かずに居た俺の意識が削がれる。 「私も出来れば君にここに居て欲しくはないんですけどねぇ、今日明日はここに居て大人しくして居なさいね」 骨のような医者は宥めるようにチェシャ猫にそう言うと、壁に埋め込まれたスピーカーを通して医療班の人員要請を始める。 「お前は死にかけの怪我人だ。ここで大人しくしていろ」 体を起こそうとするチェシャ猫の肩をベッドに縫い付けながらそう言うと、チェシャ猫は不満げな顔をした。 BackNext [戻る] |