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ノアは時間を気にしているのか再度腕時計に視線を移すとハイジに声をかけた。
「もう俺と話したいことはねえかハイジ」
「うん、ありがとうおじさん。おじさんが俺の事嫌いじゃないってわかって安心した。小百合の件が終わったらまた遊びに来てもいい?」
「ああ…お前がくればシンも喜ぶからな。こいつ真面目過ぎる所があるから息抜きさせてやってくれ。お前と友達になってからシンが面白い顔をするようになった」
ノアが面白そうにそう言うと、シンは不満気な顔をしハイジは意味がわからないのか首を傾げた。
「それはそうと…お前この後図書室で小百合と待ち合わせてんだろ?」
「うん」
「それ1時間後でもいいか?小百合のやつ今風呂行っててまだ暫く帰って来ねえ。あいつ長風呂だからな。それに少し話してからお前の所に行かせたい」
ノアがそう言うとハイジは別に大丈夫だよ、と微笑んだ。
「…こんな時に風呂?…大丈夫なのか?一応あんたらは小百合から手を切ってるって事にはなってんだろ?他の囚人から狙われるんじゃないのか?」
小百合の行動に疑問を抱き俺がそう尋ねると、ノアは不思議なものを見るような目で俺を見た。
「…まさかお前が小百合の心配をするとは思わなかったぜ。あいつは風呂が好きだからイラついてる時とか冷静じゃねえ時は風呂に入れて落ち着かせてんだよ。
小百合を恨んでる奴は多いだろうから狙われるだろうが、あいつはうちではシンの次に喧嘩が強い。だから耳が無くなったくらいでヘタレたりはしねえよ。むしろハイジの件でイライラしてるだろうから周りに当たり散らして暴れてるかもな」
ノアはそんなことは別にたいした問題じゃないと言うような顔でそう言うと、ハイジに視線を戻した。
「お前は先にシンと図書室に行ってろ。ワンに仲裁を頼むんだろ?俺は少しラクハに話がある。後で小百合は必ずお前の所に行かせる」
ノアがそう言うとハイジは勢いよく立ち上がった。
「ありがとうノアのおじさん。行こうシン」
ハイジはそうシンに声をかけると、席を離れる前に俺にぎゅうっと抱きついてきた。
「…どうした?」
「…兄ちゃん、やっぱり後から図書室に来て?」
「小百合の件は自分でどうにかするんじゃなかったのか?」
「…うん。そうだけど、図書室の前で終わるの待ってて?やっぱりちょっと心細い…。大丈夫だと思うけど…ワンワン気まぐれで性格悪いから俺のこと止めてくれるかわかんないし、俺こう言うの初めてだから俺自身がどうなるかわかんなくてちょっと怖い…」
そう言って眉を下げて俺の肩口に額を押し付け全力で甘えてくるハイジの頭を撫でてやりながら、俺はこの間シンを殺そうとしていたハイジの姿を思いだした。
「…わかった。後で行くから安心しろ。ただし、俺は終わるまで中には入らねえからなるべく自分でどうにか出来るように努力しろ。いつも俺がお前の側に居てやれる訳じゃねえからな。第一、こんなことも1人で出来ねえって言うなら1人でノアの箱船に行かせられねえからな」
俺がそう言うとハイジは慌ててヤダヤダ!と駄々をこね始める。
「俺…頑張るから!外から見守っててね兄ちゃん!」
ハイジは自分に喝を入れるように自分の頬を何度も叩くと、シンと一緒に図書室に向かった。
「リアム、お前小百合を急かしてこい」
ノアがタバコを揉み消しながらそう言うと、立ち去ろうとしていたリアムという男は目を見開いた。
「はあ?!嫌っすよ!つーかあいつ俺のこと舐めてるんで言うこと聞かないっすよ。今うちで小百合が言うこと聞くのノアさんとシンだけじゃないですか。小百合がなついてたキーマンもこいつのせいで別人みたいになっちまったから使い物にならねえしな」
恨みがましい物言いで俺を睨んでくるリアムという男のその発言を聞いて、そう言えばそんな奴もいたな…と記憶を呼び起こす。
小百合はキーマンになついていたってのは意外だな。何か接点でもあったのか?
別に興味はねえが、確かにエドアン不在の時にキーマンは俺に復讐しにくるものだと思っていたがその気配はなかった。
何か思惑があってのノアの指示かも知れねえな。
使い物にならなくなったってのはどういう意味だ?
まあいい、今はそれよりも先に考えなければいけない問題がある。
「これからはお前が小百合の代わりをするんだ、甘ったれたこと言ってんじゃねえ。
それに心配しなくても俺が呼んでるって言えばあいつも言うことをきく。
お前はやれば出来る癖にシンや小百合に引け目を感じて前に出ようとしねえ。
お前はあいつらより年上で落ち着いてるし仲間に慕われてる。陰ながら俺やシンのフォローをしてくれてんのも知ってる。お前はもっと自分を出していい。シンに引け目を感じてるようじゃ小百合の後釜は務まらねえぞ」
ノアは考えを変える気はないらしく、早く行け、と手を動かした。
「…ノアさんが俺に期待してくれてんのはありがたいですけど、俺はあいつらとは違うんで…多分ノアさんを失望させますよ。まあ…命令なら従います」
リアムという男は静かにノアにそう返すと、すれ違いざまに俺を睨み付け立ち去った。
ノアはそれを見届けるとゆっくりと立上がり、俺に自分の房へ来るように促した。
正直行きたくはなかったが、話の内容的に誰にも聞かれずに俺と二人だけで話したいと言うノアの意図も理解出来たので大人しくノアの後ろをついて行った。
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