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「お前なんて嫌いだよ」
ーshin sideー


ある日の労働中、エデンの奴にひと切れのメモ紙を突きつけられた。

そいつはリズからの伝言だと言ったが、メモの内容は一言。

深夜0時医務室とだけかかれていた。


今思えば、これが全ての


不幸の始まりだった。




リズに呼び出される事は別に珍しくはない。

大概エデンの奴とウチの奴のトラブルの件についてあれこれ言われる事が多い。

だから今回もまた誰かが何かやらかして、お互いどうでるのか腹の探り合いをする為に呼び出されたのだろうと思った。

約束の時間に医務室に行くと、消灯時間が過ぎている為当然ながらそこは真っ暗で何も見えなかった。


廊下の足許を照らすナイトライトがぼんやりとした明かりを放つだけだった。


正直これが何かの罠だと言う可能性もあったが、視界が悪く動きづらいのはお互い様であり、ハンデは平等。

仮に本当にリズなら俺と直接喧嘩するとは考え憎い。リズとノアさんは結構仲がいいから何かするにしてもノアさんを本気で怒らせる真似はしない。

仮に他の奴の悪巧みだったとして、ここで俺より強い奴や互角な奴は限られている。そいつらがわざわざ俺を痛め付ける為に罠を仕掛けるとは思えねぇ。

となると、そいつら以外って事になる。

なら負ける気がしねぇ。


一応警戒を強めながらドアを開けると、そこには既に人の気配がした。

ここ最近医務室に泊まる奴は居なかった筈。

従ってここに居るのは俺を呼び出した奴って事になる。


俺の存在に気づいたのか、そいつは立ち上がったらしく服の擦れる音がした。

「…いつまで待たせんだよ。俺はそんなに暇じゃねぇんだけど」

その声を聞いて、俺は唖然とする。

聞き慣れた、その憎たらしい物言いをするその男を俺はよく知っていた。

「…何でてめぇがここにいやがんだよワン」

俺がそう言うとワンが息を飲み込む音が聞こえた。

「…はぁ?シンか?何でお前が来んだよ」

お互いに頭にハテナを浮かべていた次の瞬間。俺の背後で突然扉が締まり、ガチャリと嫌な音が聞こえた。

「…おいおい。マジかよ」

呆れたような声でそう溢すワンの独り言を聞いて、俺は血の気が引いた。

慌てて後ろを振り返り扉を開けようと奮闘したが、全てが無駄な努力だった。

「…まさかてめぇの差し金じゃねぇだろうな」

俺が怒りを隠さずにそう言うと、ワンはため息をついた。

「あのなぁ。…お前と二人きりになって何の得が俺にあんだよ。ヤらせてくれんのかよ」

「…ヤめろキチガイ。気色悪い事冗談でも言ってんじゃねぇよ」

俺がそう言うと、何となく奴が嫌そうな顔をしたような気がした。

ワンはゴソゴソと手を動かすと、ライターの火をつけた。


それによってワンのシルエットや表情がわかり少し気が楽になった。

ワンが煙草に火をつける様子を見ながら、この事態はどう言う事なのかを考える。

ワンの様子だとあいつも誰かに騙されてここに来たように思える。

俺とこいつを閉じ込めて得するのは、ウチと喧嘩したい奴と、アリスの森の奴に危害を加えたい奴。

或いは俺達二人を喧嘩させて、どちらかを殺したい奴。

「ん。何も見えねぇだろ」


ワンは一本目の煙草をくわえたまま、二本目の煙草に器用に火をつけるとそれを俺に差し出した。


今の奴に悪意がないとわかる程度には、奴との付き合いが長いので俺はワンから無言で煙草を受け取る。

恐らくワンも俺が何処にいるのか、明確にしたいんだろうし。

一瞬触れたワンの手が異様に冷たくて、少し驚いた。

「結構前からここに居たのか?」

「まぁな。お前が来る一時間前からな。帰ろうとした時にお前が来たんだよ」

ワンは苛立ちを含ませた口調でそう言うと、突然歩き出した。

どうやらかなりイラついている様子だった。


ワンの持っているライターの火に照らされて医務室内の様子がぼんやりとわかる。

ワンは綺麗にベッドメイクされた真ん中付近のベッドに腰を降ろすと、靴を脱ぎ始めた。

「おい。お前まさか、この状況で寝る気か?」

上着を脱ぎベッドの中に入り込むワンにそう尋ねると、ワンが不機嫌そうにうなった。

「何で、んなぺらいんだここの毛布。クソ寒いんだけど。マジでここに閉じ込めやがった奴半殺しにしてやる」

「おい」

「ぁあ?今何時だと思ってんだよ。それにいつ出られるかは知らねぇが、明日の朝5時にまだ俺がここに居るなら、確実に明日ロゼさんがブチキレてるから死人が出る。

明日忙しくなる事がわかっていて体力を無駄に消費する奴いんのかよ」


欠伸をしながらそんな事を言うワンに、俺は背筋が冷たくなる。

「何だよ…それ。何でお前が居ないとチェシャ猫がブチキレるんだよ」

「お前…んな事も知らねぇでよく生きてんなぁ。アリスの森じゃ常識だぜ。ロゼさんは起床のベルが大嫌いなんだよ。

起床のベルで起こされるとロゼさん超絶機嫌悪くて、かなりイラついてるから目を合わせたら最後だぜ。

だからそうならねぇようにボランティアで、毎日ベルが鳴る前に俺がロゼさん起こしてんだよ」

成る程、もしかして今俺達が生きて居られるのはこいつのお陰って訳か。

だからと言って感謝してやる義理はない。

「まぁ、俺は安全だから別にどうでもいいけどなー?ドンマイ」

モゾモゾと動きながらそう言って、煙草を揉み消すワンに殺意が芽生える。

俺は取り合えず施錠された扉に背を預け、腰を降ろした。

床の冷たさと室内の冷気に身震いする。

誰か近くを通らないかと耳をすませていると、ワンが盛大なくしゃみをした。

「あー…っクソ!寒い!寒い!寒すぎんだろ!マジでぶっ殺す!」

…ちょっとあいつ短気なんじゃねぇか?

俺もそれなりにイラついては居るが、おれよりも更にイラついているワンを見て、不思議と苛立ちが緩和される。

「…うぜぇ。クソうぜぇ!寒くて眠れねぇじゃねぇか!」

毛布にくるまり、一人賑やかなワンにげんなりする。

「うっせぇよ!黙って寝てろよキチガイカメレオン!!」

「あぁ?!お前は馬鹿なのかよシン。凍死寸前だってのにどうやって寝ろって言うんだよ!つかお前よく平気だな?…子供体温かよ」

「いっそのこと凍死しろよ。うるせぇから。お前が特別寒がり何だろ!女子か!温めて欲しいってか?」

俺がそうからかうように言葉を返すと、ワンは吹き出した。


「お前…俺がいくらキュートなイケメンだからってヤメロよ…。そう言う心臓にわりぃ事言うの…」

は?お前急にどうした?と突っ込みたくなる位に、ワンの声色が急に弱々しくなる。

「…マジでたちが悪いぜ」

ワンは拗ねたようにそんな言葉を吐いて、毛布の中に籠城した。







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あきゅろす。
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