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「冗談なのか」

エドアンの言葉が何を指しているのかは明白だった。

「冗談だ、忘れてくれ。今の俺は冷静じゃない」

今俺に出来ることは、エドアンが早くこの件を忘れてくれることを願い、感情に流されないように頭を冷やすことしかなかった。

エドアンに背を向けたままそう言うと、エドアンに体を反転させられた。

冷たい水色のタイルの壁に縫い付けられ、冷たさに体が強張った。

「あんな目で俺を見つめて、冗談だって言うのか。じゃあ、俺がおかしいのかよ」

エドアンは何かを堪えるような眼差しで俺を見つめ、俺の手を掴むと、自分の胸元に持って行く。

押し付けられたエドアンの胸元から、激しく速度を増した心臓の動きを感じ、体が瞬時に熱くなった。

「近づきたいと思うのは俺だけだと思っていた。

けど今日初めて、クララから近づいてくれた。

それが嬉しくて、人をたった今殺して来たこの俺に、あんな事を言えるお前がすげぇなって。一瞬全てを忘れるくらいに馬鹿みたいに喜んでるってのに。

冗談なのかよ」

懇願するようにそう告げ、俺をきつく抱きしめるこの男に眩暈がした。

「…やめろっ、俺はお前を不幸にしたくねぇんだよ。
お前は何も知らない。俺はお前が思っているような人間じゃねぇんだよ。

早く俺を憎むなり嫌うなりして俺を拒絶しろ。

これ以上は、俺が堪えられねぇ」

頬を伝う存在に気づき、咄嗟に腕で顔を隠そうとしたがそれは敵わなかった。

腕を捕らえられ、見つめられたその琥珀色の熱に体を縛られ、動くことが出来ない。

「どうしてだろうな。俺の自惚れなら俺から逃げろよクララ。俺には、これ以上俺と居ると、俺から離れられなくなるって聞こえる。悪いクララ、もう駄目だ」

俺が言葉を発する前に噛み付くように口を塞がれた。

馴れないその行為に戸惑う俺を、強引に引きずり出すように。

余裕のない、普段とは違って荒々しさを感じる深い口づけに頭が痺れる。

まるで、飢えた狼が獲物を貪るように。

呼吸さえも許してもらえない。

どうしようもない不安や恐怖に怯えていたのはエドアンか俺か。

余裕がないのは、夢中になっていたのはエドアンか、俺か。



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あきゅろす。
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