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◇◇◇
ーside HAIJIー
「ここから先には、俺は入れねぇ」
医務室の前で立ち止まり、シンは表情を強張らせる。
「…ここまで送ってくれて、ありがとうシン」
色々ぐちゃぐちゃしていたけど、シンもノアのおじさんと俺の間に挟まれて辛いんだ、そう思ったらシンを責めることは出来なかった。
それに、シンは俺を裏切ったりしなかった。
自分の命を俺に託し、俺から逃げなかった。
それだけで、何か救われた気がした。
「ハイジ、…俺は」
気まずそうな顔で俺に何かを訴えようとするシンの言葉を遮るように、俺は何もいわずシンにハグをする。
「大丈夫だよ。シンの気持ちはもう伝わったから。俺、これからもシンのこと信じたいし、大好きだよ。何より、シンを失いたくない」
シンの体に強く抱き着き、今の気持ちを精一杯伝える。
シンの反応が怖くて体を固くしていると、背中に温もりを感じた。
シンに強く抱き返され、息苦しさにシンの顔を見上げる。
「…俺もだ」
俺の視線に困ったような顔をして小さな声でそう言うと、シンは勢いよく俺から体を離し、立ち去って行ってしまった。
シンの後ろ姿を見つめながら、俺は名前も知らない誰かに、シンを俺から奪わないでと願った。
「ハイジさん!」
医務室の中に入ると、ベリーズに声をかけられた。
「ゼロはどう?」
俺がそう尋ねると、ベリーズは表情を曇らせ視線を窓際のベッドで寝ている人物に移した。
「今は眠ってます。すみません、代わってもらってもいいですか?僕、ちょっとお手洗いに行ってきます」
慌ただしく医務室を出て行くベリーズの目元には涙が浮かんでいた。
ベリーズのそんな様子に、体が緊張するのがわかった。
恐る恐るベッドの上に視線を合わせると、そこには静かに眠るゼロの姿があった。
まるで、もう目を覚まさないんじゃないかって思うくらいに、ゼロの顔が白く見えた。
俺は静かにベッドの上に腰を降ろし、投げ出されたゼロの左手に自分の手を重ねる。
ゼロの手を握りながら、小百合の言葉を思いだし、怒りを思いだしていると、ゼロの瞼が僅かに動いた。
開かれたその瞳が俺の姿を捕らえると、ゼロの表情は歪み、涙を溢れさせた。
ゼロの腕が俺を求めるより先に、俺はゼロを強く抱きしめていた。
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