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ハイジが気が済むまでこいつを罰してからだ、俺が手を出すのは。
少しの間頭の中を整理していると熱い視線を感じた。
耳を抑えたまま、熱に侵されたように俺を見上げてくる小百合に居心地の悪さを感じる。
俺はポケットからバンダナを取り出し、床に落ちたそれを拾いあげた。
バンダナでそれを包み込み、小百合に差し出す。
「これを持ち帰ってノアに見せろ」
そう告げ、切り落とされた小百合の左耳を包んだバンダナを小百合に握らせる。
「俺にやられたと言え。そして、俺がこのままではすまさねぇと言っていたと伝えろ。
売られた喧嘩は買う。例えエドアンが許したとしても、ハイジに危害を加える奴を俺は絶対に許さねぇってな」
不思議そうな目を向ける小百合にそう命令し、俺は腰を上げた。
壁に寄りかかり、俺達のやり取りを静かに見ているエドアンに近づく。
普段とは違う空気を纏っているエドアンに違和感を感じていると、俺が口を開く前にエドアンが先に口を開いた。
「あまり勝手なことをするな。下手に動かれると関係ねぇ奴らまで被害にあう」
エドアンは真剣な眼差しで俺を責めるように言葉をこぼす。
おそらく俺がノアを刺激することによって、ネバーランドの囚人とノアの箱船の囚人が争うことになると考えているんだろう。
エドアンのその言葉が、俺達ネバーランドの囚人を守る為に発せられたことはわかっていた。
だが、エドアンに守りたいものがあるように、俺にも守りたいものがある。
「それが何だって言うんだ。他の奴らが無傷だったとしても、ハイジが無事じゃなかったら俺には意味がねぇんだよ。何かを守る為には何かを犠牲にしなきゃならねぇ。違うか?」
犠牲なしで思い通りになる程甘いものなんて存在しない。
全てを犠牲にしても思い通りに行かないことだってある。
俺にとって、ハイジが全てだ。
ハイジが笑っていられるなら、他に何も望まねぇ。
「クララ」
俺の名を呼び、何か言おうとするエドアンの言葉を聞くことに煩わしさを感じ、俺は遮るように言葉を吐く。
「俺はハイジの所へ行く。後はお前の好きにすればいい。お前にとって俺が邪魔なら、俺を殺せ。そうでもしねぇと、ハイジのことに関しては言うことを聞いてやれねぇ」
俺はエドアンにそう言い残すと、直ぐにその場から立ち去った。
何故かエドアンの目を見ることができなかった。
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