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「お…俺、そんなつもりじゃなかったんだっ!見捨てるつもりで逃げ出したんじゃねぇんだよ…。

怖かったんだよ、怖くて怖くてお前のことが見えてなかったんだって」

目の前の男が何を言っているのかはわからないが、その必死な表情から誰かに言い訳し謝罪しているのはわかった。

真剣に俺を見るその目は、まるで人間ではない何かを見るような、かと言って恐れや不気味さを感じている訳ではないような、そんな目をしていた。

「…仕方ねぇだろっ?だってあそこで逃げなきゃ俺が殺されてたんだ。

なぁ、お前だってそうするだろカミエ?

もういいだろ?悪かったと思ってるよ、何度だって謝るから、だからもう…いい加減俺の頭の中から消えてくれよぉっ…」

俺の胸元に顔を埋め、強く服を握り締めてくる男をどこか遠くからながめながら、俺はこの男をどう使うかを考える。

「…天使様っ」

そう言って俺の顔を見上げてくる男から興味が薄れていくのを感じながら、俺は視線を男の顔に留める。

「どうやったら俺は許される?何をしたらもう悪夢を見なくてすむ?」

涙を浮かべ、懇願するようにそう質問してくるその男に仕方なく口を開く。

「悪夢を見たくないと思っている内は見続ける。許されたいと思ってる内は許されねぇ」

俺の考えをストレートに伝えると、小百合は乾いた笑い声をあげた。

「ハッ…そうだよな、アンタの言う通りだ」

小百合は納得したように息を吐く。

「これがお前の欲しかった褒美か」

俺が茶番劇に興味をなくしそう尋ねると、小百合はゆっくりと伏せていたその目を俺に向けた。

「悪いかよ…。アンタだって悪夢くらい見るだろ…?」

「見なかった日を数える方が楽なくらいにはな。

だが俺は悪夢は見るもんだと思っている。

だから別にどうにかしようとは思わねぇ」

俺がそう言うと、小百合は気まずそうな顔をした。

「…アンタの言うこと聞いたら、信用するって約束だ。アンタの言うことは何でもきくから、だから早く医務室に行かせてくれよ」

いつからそんな話になったのか、記憶を思い起こしながら、元々今の段階で小百合の体にあまり傷をつける予定ではなかったことを思い出す。

ハイジにはこいつが元気な内に好きにさせてやりたい。こいつが逃げないように、変な気を起こさないようにするだけでいい。






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あきゅろす。
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