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俺の右手を押しやり逃れようとする小百合の手を気にせず、俺はそのまま右手に力を入れた。

「うあ゛ぁぁ…やめろよぉっ!!頼むからっ、やめてくれ…」

左耳に半分程ナイフを差し込んだところで、小百合は俺に懇願を始めた。

痛みに耐えられなかったのか、恐怖に耐えられなかったのか、それはわからなかったが小百合は涙を浮かべた瞳を俺に向けてきた。

そこにはいつもの勝ち気な光はなく、必死な形相で俺の腕を掴み無駄な抵抗をしている。

「頼むっ…これからアンタの言うことなんでも聞くから、アンタの為に尽くすから、やめてくれ…っ」

小百合はナイフの刺さったままの深紅に染まった耳を抑えながら、涙を浮かべた瞳を俺に向ける。


俺は小百合と視線を合わせる為に少し屈むと、左手で小百合の顔を雑に上に持ち上げる。

「信じられねぇな」

小百合の瞳をじっくりと観察し感情のない声でそう告げると、小百合はナイフを掴む俺の腕を掴んだ。

俺の腕を掴む小百合の手が不自然に震えていることと、まるで何かに取り付かれたように俺の顔を見返してくる小百合に違和感を覚える。

「どうしたら…信じて貰えるんだよ?教えてくれよ…何でも言う通りにする」

小百合の表情に偽りや企みは見られない。

それが逆に俺の中では、違和感を感じた。

今俺に命ごいをするなら、どうしてもっと早くしなかったのか。

ハイジが狂気を見せた時や、仲間が俺に痛めつけられている時に、何故言わなかったのか。

俺はすぐ側で俺達のやり取りを黙って見ているエドアンに視線を移す。

エドアンは何もいわず、無表情で小百合の動向を冷静に分析しているようだった。

俺は数秒間考えた後に口を開いた。

「じゃあこのまま自分で切り落とせ」

小百合の耳元でそう囁く。

小百合は顔色を酷く悪くし、今にも泣きそうな顔をした。

その顔を見て、妙な高揚感を覚える。

「で…できねぇよぉ…」

それだけは許して欲しいとばかりに、小百合は小さく首を横に振る。

「そんなことも出来ねぇお前を信じろって言うのか?」

「そんなのひでぇよ…っ、俺があんたに何したってんだよ…」

「俺は別にどっちでもいい。お前にできねぇなら俺がする」

ぐずる小百合に冷たくそう言い放つと、小百合は静かに涙を零した。



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