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俺から逃れようと体を動かす小百合の目を見つめながら、エドアンに静かにそう告げる。
ポケットからナイフを取り出していると、右肩に重力を感じた。
視線だけエドアンの方に動かすと、エドアンは俺の肩に置いてある自分の左腕にもたれ掛かるように顔を埋めていた。
「…どうかしたのか」
俺がそう尋ねるとエドアンはゆっくりと顔を上げ、俺の顔を数秒間見つめた。
「お前と話ていると、もう一人の自分と話ている気分になる」
複雑そうな顔をして無理矢理に笑うエドアンに、俺は眉を寄せた。
エドアンの言っている言葉の意味が理解できなかった。
「お前の中に…俺のような悪魔のようなお前が居るっていうのか」
エドアンは俺のその問いには答えずに、ただ困ったように作り笑いをするだけだった。
「想像できねぇな」
思わずそう零すと、エドアンは俺の肩にもたれていた体を起こした。
「今のは忘れてくれ。お前に失礼だった。俺はお前程崇高でも、強くも、誇り高くもない。
俺はただの弱虫でガキなだけだ。
自分の思い通りにならないことが多過ぎて訳がわからなくなると…時々全てを、余計なものや邪魔なものを綺麗に排除したくなる」
そう言って遠くを見つめるエドアンの横顔を見て、何故か妙な肌寒さを感じた。
ついさっき屋上で感じた馴れ親しんだ感覚と今感じているものは同じだ。
まるで、ハイジの狂気に触れているようだった。
だがハイジのそれよりもエドアンの方が色が深く、ハイジよりも馬鹿でかい。
もっと言うなら、ハイジよりも精神が大人であり自分でそれをコントロールできる分たちが悪い。
そんな感じがした。
「軽蔑したか」
俺の顔を見ずにそう尋ねてくるエドアンに、俺はゆっくりと口を開いた。
「質問の意味がわからねぇ。安心しろよ、お前は偽善者じゃねぇ。それに立派にまともな人間だ」
俺がそう答えると、エドアンの表情が若干柔らかくなったような気がした。
「お前の方が意味わかんねぇよ。でもありがとなクララ」
柔らかい笑みを浮かべそう言うエドアンを疑問に思いながら、俺は小百合の顔を左手で固定した。
そして取り出したナイフを小百合の左耳へと持って行く。
「中断して悪かったな」
何の感情も込めずそう言う俺を見て、俺が今から何をするのかがわかったのか小百合の顔は恐怖で引き攣った。
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