431 「兄ちゃん、俺が居ない間ここをお願いしてもいい?俺、ゼロの所に行かなきゃ。こいつらをどうするかはその後考える」 後ろを振り返り、強い眼差しを俺に向けながら落ち着いた口調でそう言うハイジを見て俺は安堵する。 「あぁ。エドアンが来るまでこいつらは俺が叱っておいてやる。シンに医務室まで送って貰え」 ハイジは俺にぎゅうっと抱き着き、耳元でありがとう兄ちゃん、と言葉を残すとシンを連れ直ぐに立ち去って言った。 立ち去る前にシンが俺の方を見て不安そうな表情をしていたが、俺は特に気にすることなく自分のやるべき事に取り掛かる事にした。 俺はハイジの温もりを思い返しながらゆっくりと立ち上がった。 ハイジが居なくなったのを確認し、逃げるように扉の方へと足を引きずる囚人達を遮るように俺は扉の前に移動する。 「そこを退けよ、あんたには関係ねぇだろ」 早くノアの元に帰りたいのか、焦ったように俺を押しのけようとするその囚人の胸倉を掴み、俺は床に放った。 「何か勘違いしてねぇか」 床に転がした囚人に俺がそう言うと、ノアの箱船の囚人達は怪訝そうな顔で俺の方を見返した。 「俺は別にゼロの件でお前らに復讐をしようとは思ってねぇ。俺が今からすることは全くの別件だ」 俺の放つ言葉の意味がわからないと言った顔で俺を見つめてくる小百合と目が合う。 「俺のハイジに手を出し泣かせた奴をこのまま俺が許すと思っているのか」 一呼吸置いて静かに俺がそう尋ねると、ノアの箱船の囚人達の顔が青ざめた。 俺は囚人達の後方で唇を噛み締め、顔を逸らしている小百合に近づく。 小百合の下顎を掴み無理矢理顔を自分の方に向かせると、小百合の怯えた瞳と目が合った。 「…少し俺と話をしようぜ。嫌なら先にお前を痛めつける。俺の質問に答えるか、俺に殺されるか選べばいい。精々早くエドアンが戻ってくることを祈れ。…戻って来たエドアンが俺を止めるかどうかは疑問だけどな」 俺が小百合の目を見つめながらそう告げると、小百合は覚悟を決めたように目を固く閉じた。 俺はそんな小百合の様子を見て、一端小百合から体を離す。 先に煩わしいものから片付けようと思い、何故か立ちすくんだまま動かない囚人達の方へと向き直った。 BackNext [戻る] |