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二人のやり取りを見守っていると、ハイジの狂気が薄れたのがわかったのか俺同様成り行きを見守っていたノアの箱船の囚人の一人が口を開いた。

「その、悪かった。俺達が悪かった、二度とこんなことはしねぇよ」

そう言ってその囚人はハイジに許しを請うが、俺から見ればシンが和らげた空気を利用して、自分の危険を回避しようとしているのは明らかだった。

その囚人に続くように次々とノアの箱船の囚人がハイジに謝罪をしていく中、シンとのやり取りで和らいでいたハイジの狂気が再び強く現れていくのがわかった。

気まずそうに目を伏せるシンの横顔と、奥歯を噛み締め何かを堪えるように目を閉じるハイジを見て、俺はハイジの怒りの原因に視線を向けた。

白髪のその男は顔を引き攣らせ、壁に背を預けていた。

小百合がシンとハイジのやり取りを見て激しく動揺し、又ハイジに次々に謝罪する仲間達にうろたえているのは明らかだったが、小百合がハイジに謝罪をすることはなかった。

うろたえながらもハイジを睨みつけている小百合と、そんな小百合の態度に再びハイジが狂気にのまれ始めるのがわかり、俺はハイジを自分の方に引き寄せ腕の中に閉じ込めた。

「兄ちゃん…俺どうしたらいい?シンは好きだけど俺、やっぱり許せねぇよ。小百合の首を切り落として内蔵を引きずり出してやりたい」

拳を握りしめ、怒りに体を震わせながらそう訴えてくるハイジを俺は強く抱きしめる。

「冷静になれハイジ。感情に流されるな。本当にお前が今しなければならないことはこいつらを今直ぐに殺すことか?」

俺がそう言うとハイジは困ったように顔をしかめ、涙を浮かべる。

「もしこれが外なら、こいつらが逃げる可能性を考えて直ぐに始末する方がいいのかもしれねぇ。だが、ここ刑務所だ。

どんなに逃げようと思ってもこいつらはお前から逃げることは出来ねぇ。

第一エドアンがこのまま何もせずにこいつらを生かしてはおかねぇだろ。

ここにいる奴らの全員の顔とナンバーを覚えた。仮に隠れたとしても、俺がお前の前に引きずり出してやる」

俺の言葉を聞いてノアの箱船の囚人は体を強張らせ、顔を引き攣らせる。

ハイジは俺のその言葉を聞いて少し落ち着いたのか、少しの間何かを考えるように目を伏せた。

「俺が今しなければいけないこと…」

数十秒後、ハイジは目を開け強い眼差しで扉の方を見つめた。




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あきゅろす。
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