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何故そうしたのか。
そんなことは考えなくてもわかった。
ハイジが俺を求めている以上に、俺がハイジを求めていたからだ。
暗闇に居ることに慣れきって、大事なものを無くしてしまった俺を受け入れてくれたのもハイジだけだった。
こんなにも醜くく、冷酷で残忍な俺に、不幸しかもたらさない俺に、笑顔を向けてくれたのはハイジだけだった。
眩し過ぎて理解ができなかった不気味な弟を、俺はずっと前から無意識に愛しいと感じていたのかもしれない。
「…俺でいいのか」
どうにもハイジが俺を求める理由がわからずにそう尋ねると、ハイジは俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「…兄ちゃんがいい」
ハイジは顔を俺の肩口に埋めたままそう答える。
ハイジの返答に言葉を返さずにいると、ハイジはゆっくりと体を起こした。
「血の繋がった父さんをバラバラにして血まみれの俺を怖がらずに、躊躇わずに抱きしめてくれるのは世界中を探してもきっと兄ちゃんだけだよ」
ハイジは可笑しそうにそう答える。
「…それを言うなら、俺を兄貴にしたいなんて言う奴もお前しかいねぇよ」
俺がそう言うとハイジは笑った。
「俺の兄ちゃんになれるのは兄ちゃんしか居ないし、兄ちゃん以外に無理だよ」
ハイジは俺の顔に触れながら柔らかい眼差しで俺を見つめる。
「俺の弟になれるのもお前だけだ。兄貴がこんなにイカレてんだ、弟が実の父親をスプラッタにするくらい別に普通だろ」
真顔で投げやりにそう言うと、ハイジは嬉しそうに、涙を浮かべ微笑んだ。
「ありがとう兄ちゃん」
安心したように表情を緩め、俺に強く抱き着いてくるハイジの頭を撫でながら、俺は闇に覆われた窓の外へと視線を移した。
そこに見える暗闇を見ても、俺が途方にくれることはもうなかった。
なぜなら生きる目的を見つけたからだ。
今まで俺は母さんの為だけに生きてきた。
だが、これからはハイジの為に生きていく。
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