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「どうやったら…俺が兄ちゃんを憎めるって言うの?」

涙の混ざった掠れた声で吐き出されたその言葉を聞いて、俺はただ驚くことしかできなかった。

俺の方に腕を伸ばすハイジの動きがまるでスローモーションのように見えて、ハイジに抱きつかれていることに気がつくのに時間がかかった。

俺の首に絡みつくハイジの腕の温もりや、俺に縋り、助けを求めるようにしがみついてくるハイジに唖然としながら、俺はハイジの言葉に耳を傾ける。

「兄ちゃんだけだったんだ、俺に優しく触れてくれたの」

「この家で俺を受け入れてくれたのは兄ちゃんだけだったんだよ」

「母さんに怒られた俺をいつも心配してくれたのも、

寒い夜に一緒に寝てくれたり、痛くて苦しくて死にたい時に頭を撫でてくれたのも。

俺の為に、いつも薬や食べ物を無理して手に入れてくれてたのも兄ちゃんだけだよ。

兄ちゃんは何も言わなかったけど、食べ物がない日には必ず、自分は食べずに俺に食べ物をくれてたのも知ってる。

兄ちゃんは働いて疲れてて俺よりもずっとお腹が空いてたのに。

俺全部覚えてる」

ハイジは大粒の涙を零しながら必死でそう訴えてくる。

ハイジは勘違いしている部分が多い。

本当は優しい訳じゃなくて、俺がただ自分のことに極端に無関心なだけだ。

ハイジに死なれたら困る理由があったからそうしただけで、別にハイジ自体に特別な感情があってした訳じゃない。

俺に可哀相だから何かしてやりたいなんて感情は存在しない。

俺が真実を伝える為に口を開こうとすると、それを遮るように、真っ直ぐな瞳を向けられた。

「例えそれが本当は俺の為じゃなかったとしても、そんなことは別に俺はどうでもいいんだ。

兄ちゃんの表情や態度は冷たくて、言葉も冷たくて少なかったけど、俺には全部が暖かかった」

そう言ってハイジは困ったような笑みを浮かべ、俺の肩口に再び顔を埋めた。

「一人は怖いよ。怖いよ兄ちゃん、一人で暗闇にいるのはもう嫌だよ」

「お願い兄ちゃん、俺を捨てないで。俺の兄ちゃんで居ることをやめないで」

酷く弱々しく、聞き間違いかと思うような小さな声でそう訴え、しがみついてくるハイジが、俺の胸に開いた大きな穴を塞いで行くのがわかった。

この時初めて、俺にしがみつき、俺に側に居て欲しいと泣いて縋るハイジを自分の意思で抱きしめた。






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