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「…どうした?」

俺を殺さないのか、と言う意味で俺を見つめ動かないハイジにそう声をかけると、ハイジは握っていた深紅に染まった斧を床に落とした。

「…兄ちゃん、やっぱり俺っておかしいのかな…?」

「…おかしいのはお前じゃねぇよ。俺達がおかしいからまともなお前が浮いて見えるんだ。それだけの話だ」

視線だけを俺に合わせて質問してくるハイジの意図が理解できなかったが、俺はハイジに対してそこまで関心がなかったため適当に返事をする。

「俺、あいつが許せなくて…バラバラのぐちゃぐちゃにしちゃったんだ…。兄ちゃんも、俺がこわい?」

ここで恐いと言えばハイジが俺を殺してくれるだろうと変な確信があったが、俺は何故かハイジに嘘をつくことができなかった。

「…それを言うなら、俺はお前が一番恐いと思っている人間を殺した。寝室に顔面が穴だらけになった母さんが横たわってる。

お前は母さんを殺した俺が恐いか?」

テーブルの上で頬杖をつき、見上げるようにそう尋ねるとハイジは緩く首を左右に振った。

「…それと同じことだ。別に今のお前を特別恐いともおかしいとも思わねぇよ。寧ろ今までのお前の方が別の意味で俺は気持ちが悪かった。今のお前の方が自然だ」

俺が投げやりにそう言葉を返すと、ハイジは数秒間何かを考えるように視線をさ迷わせた。

「ねぇ兄ちゃん。…俺もそこに座ってもいい?」

何を思ったのかハイジがそう尋ねてくるので、俺は取り合えず軽く顎を上下に動かした。

ハイジは俺の反応を見て安心したような表情をして、ぎこちない動作で俺の右隣りにある椅子に腰を降ろした。

太股が触れ合うくらいに俺の近くにハイジが座ったことに少し驚いたが、それよりも何故ハイジがいつまで待っても俺を殺さないのかが不思議でたまらなかった。

しばらくしてハイジは口を開いた。

「さっきのってどう言う意味?」

不安そうに瞳を揺らしながら、ハイジは血まみれの顔を俺に向ける。

「どう言う意味って…そのままだ。俺にはお前みたいに純粋に相手を信じて、相手に何かを期待するなんてことは出来ない。
ましてやみんなが幸せになる為に頑張り続けるなんてことは出来ない。俺にはそんな感情がない。だからお前の本質が掴めずに気持ちが悪かった」

俺が何も考えずにそう口にすると、ハイジは納得したように目を伏せた。




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