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痛みに体を丸め、顔を青白くしている小百合の目には、うっすらと涙の膜が張っている。
小百合を見下ろしながら、あと何発殴ればゼロの体に残る痣の数を補えるのか正確に計算していると、複数の人影に囲まれた。
「その辺でやめてくれねぇか、悪かったよ。これでいいだろ?」
開閉一番にそんな事を言う傍観者の一人に、俺は露骨に顔をしかめてしまう。
これでいいだろって。
…何がいいって言うの?
俺にはさっぱり理解できなかった。
「俺達は仲間は見捨てねぇ主義だ。けど、お前に手を出すとノアさんの言い付けを破る事になる。これ以上ノアさんの言い付けを破りたくねぇ」
「もういいじゃねぇか。小百合を解放しろよ。じゃねぇと、今からウチの囚人呼んで来て、事を大きくするぜ?」
「お前が酷い目に会った訳じゃねぇし、そんなに怒るなよ。ここの人間なら誰もがする事で俺達だけが特別って訳じゃねぇ。弱い奴には何をしてもいいってのがここのルールだ」
まるで小さな子供を宥めるように、次々と言葉を吐き出していく傍観者達に、俺はすぐに言葉を返す事が出来なかった。
「何…言ってんの?」
何とか言葉を繋げてそう言葉を返すが、傍観者達はそんな俺を不思議そうな顔で見つめてくる。
「力が弱いと、強い人から酷い事されなきゃいけねぇの…?
そんなの変…だよ、絶対に変だ」
俺は気持ち悪い違和感に襲われ、戸惑いながら必死に訴える。
だけど返ってくるのは、俺を煩わしそうに見つめる不快な視線だけだった。
「…お前みたいに能天気に生きて来た奴にはわからねぇか?」
呆れたような、困ったような顔で俺を見つめてくる囚人達に、俺の心が悲鳴をあげ始めた。
わからないよ。
この人達が何を言っているのかがわからない。
能天気に?
俺は今まで能天気に生きて来たの…?
他の人からみたら俺は、能天気に生きて来たように見えるの…?
まるで頭を鈍器で殴られた時みたいに、頭がくらくらする。
「俺は…能天気に生きてきたつもりはないけど、お兄さん達の言う事がさっぱりわからない。
だって、本当にお兄さんが言う事がここでは普通だって言うなら。
俺はお兄さん達に何をしても許される事になっちゃうよ?
ここが本当にそんな世界だって言うなら。
兄ちゃんが、ここのみんなを全員殺しちゃっても、いいって事になっちゃうよ?」
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