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「そろそろ次行きますか」

ベンチから腰を上げながらそう提案するベリーズに従い、俺も立ち上がった。

ゼロの方に視線を移すと、ゼロもベンチから立ち上がろうとしているところだったが、何処か様子がおかしい。

「ゼロ、どうかしたんですか?」

「いやっ、別に何でもねぇよ」

不思議そうな顔をするベリーズに簡単に返事をしてゼロはゆっくりとベンチから腰を上げた。

ゼロが一瞬見せた苦悶の表情。

まだハイジの事で考える所があるのだろうかと思いながら、フッとゼロの足に視線を移すと歩き方に違和感を感じた。

ゼロは、早く行こうと催促するようにトレーニングルームの入り口で後ろを振り返るベリーズの元へと何事もなかったかのように歩いて行く。

この前の騒動の時に足を痛めたのか。

前を歩くゼロの後ろ姿を見つめながら何となくそう悟る。

「次はどうします?この階にはあと多目的ホールと多目的ルームがあるだけですけど」

「4階から上には何があるんだ?」

俺がそう尋ねるとベリーズは考えるように視線を下に落とし、あー…えー…、と意味を持たない言葉を呟く。

「5階から上は看守や所長の部屋なんかがあるので囚人が入れないように基本的には封鎖されています。階段だけは開放されているので屋上には行く事は出来ますけど」

俺とベリーズのやり取りを聞き、俺の反応を窺うように俺を見上げるゼロの眼差しに若干の不安が見てとれる。

「行ける所は大体把握した。だからもういい」

「じゃあネバーランドに戻りますか」

ベリーズは役目は果たしたと行った顔をして足を進める。

「何だよ?」

観察するようにゼロを見つめる俺を見て、ゼロは不思議そうに眉を寄せた。

俺はそんなゼロに無言で左腕を差し出す。

ゼロはそんな俺を少し驚いたように見つめると、ばつが悪そうに顔を歪めた。

数秒悩んだ後、躊躇いがちに俺の左腕に自分の右腕を絡ませるゼロを確認し、俺は足を前へと動かす。


「…サンキューな、クララ」

ベリーズに気づかれないように小声で俺にそう言うゼロの表情を見て、俺は複雑な心境だった。


これはいつもハイジに気にかける癖が体に刷り込まれているため、無意識に出てしまった行動であり、別に優しさでもなんでもない。

それなのに僅かに嬉しそうな顔をみせ、俺に礼を言うゼロに、何だか胃が締め付けられる。



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