347
ゼロはそう言って自分の胸元を右手で強く握り締めると、痛みに耐えるような表情を浮かべた。
泣きそうになる…か。
俺には、ゼロを苦しめている感覚を到底理解出来る訳がない。
何故ならゼロがハイジに抱いているようなそんな感情を、俺は抱いた事がないからだ。
理解出来る訳がないのにどうして。
…どうして、俺はゼロに共感を覚えているんだ?
「クララさん…?」
口を閉ざした俺をベリーズは不思議そうな顔で見つめる。
「…ハイジなら、受け入れるにしろ、受け入れないにしろ、本気で自分を思ってくれる奴を邪険にはしない。だから安心しろ」
俺は直感的にそれ以上深く考える事を止め、ゼロにそう言葉を返す。
見え隠れしている俺の本心を俺はいつものように覆い隠した。
「ゼロは恵まれてますよ。僕の方が散々ですよ。僕はさっきのダメージから暫く立ち直れそうにありませんから」
深いため息をつき、遠くを見つめながらそう呟くベリーズに、不安を浮かべていたゼロの顔に普段の表情が戻った。
「…そうだな。お前に比べればマシかもな」
さっきのワンとベリーズのやり取りを思い浮かべているのか、ゼロはベリーズ同様遠くを見つめる。
「そうですよ。正直クララさんがあんなに危険で性格の悪い人とハイジさんを2人っきりにするとは思いませんでした。
意外です」
ベリーズの口振りから、もうワンと関わりたくないと言う強い気持ちが窺える。
「明日生きてるかわからねぇからな。出来る限りあいつの好きなようにさせてやりたい。
それにこれから俺が側に居てやれない機会が増えるだろうし、1人でも自分を守れるようにここの空気に慣れさせた方がいい」
俺がそう答えるとベリーズは納得したのか小さく相槌をうった。
俺は不満を募らせているベリーズを横目で見つめながら、もしかしたらワンのあれはベリーズの為にわざとあぁ言う態度をとったんではないかと、そんな気がしてならなかった。
もしワンがベリーズの告白を喜んで受け取っていたら、ベリーズはワンに何をされていたかわからない。
ベリーズには拒否権はねぇだろうから、万が一付き合うなんて事になった日には、男に全く興味のないベリーズにとってはまさに拷問だろう。
それをわかっていたからベリーズを逃がしてやったんじゃないのか。
まぁ、本当にベリーズに興味がなかっただけかも知れねぇから何とも言えねぇけど。
BackNext
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!