315 ゼロが泣くような事は何もないのでキスでもしたらまた俺を怒ってくれるんじゃないかって。 そう思ってゼロの首の後ろに腕を回して引き寄せたところで俺は我に返る。 そう言えばゼロ、男にキスされるの嫌だったんだっけ。 唇が触れる寸前で思い留まり、この態勢をどう言い訳するかを必死に考えているとベッドが大きく軋んだ。 唇に触れる柔らかい感触に俺は一瞬頭が混乱した。 あれ…?俺キスしちゃってるっ? でもでも、俺寸前でこらえたし、そんな訳ない。 ベッドに手をついて体を支えているゼロの腕が、触れた唇が小さく震えている。 暫くそうしているとゼロがゆっくりと口を離していった。 「ゼロ…今、」 状況を理解出来ないまま何とかそう言葉をかけると、ゼロは自分でも少し驚いているような、酷く困惑し、動揺しているように見えた。 腹部の痛みの事なんてどこへやら。俺から逃げようとするゼロの腕を掴み再び自分の方へと引き寄せる。 俺にはゼロを追い詰める気なんて微塵もなかったのに。 俺を見つめるゼロの綺麗な瞳からは涙が溢れだした。 「えっ、あ、いや、俺から仕掛けた事だし、ゼロは悪くないよ?」 慌ててベッドから飛び起き、どうにかゼロの涙を止めようとゼロの背中をさする。 ゼロはそんな俺を突き飛ばすようにして床にしゃがみこんでしまった。 この状況は一体なんなのか。 俺がまた無意識に何かしでかしてしまったのか。 わからなくて頭の中をグルグルさせているとゼロの嗚咽混じりの弱々しい声が俺の耳に届く。 「…っ…訳わかんねぇ、何なんだよ…クソっ」 「どうしたの?俺何かした?したなら言ってくれないとわかんないよ」 何とかゼロの泣いている理由を突き止めようとする俺をゼロは涙を無理矢理こらえながら見つめ返す。 「…何で…っ…いいだろ別に、アイツらとは平気でする癖に…何で…」 俺を睨みつけながら涙を流し続けるゼロを見て何となくわかってしまった。 もしも、もしもゼロが傷ついている理由が今俺の考えている通りだったとしたら。 俺のするべき事は1つしかない。 俺は痛みに支配された体を起こし立ち上がりながら、痛みに慣れた自分の体に感謝した。 「馬鹿っ…何やってんだよ」 俺は立ち上がろうとする俺を見て慌てて俺のもとに近づき手を伸ばすゼロの腕を掴みベッドへと引き倒すと、涙に濡れたその唇に迷う事なく食らいついた。 BackNext [戻る] |