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対応が早かったのが良かったのかすぐに息を吹き返し、1人激しく咳き込んで汗だくで目を見開き状況を確認するチェシャ猫を見て俺は心底安堵した。

入所早々にしてここで一番危険視されている人間を殺すなんて事をしてこれから先俺達が平穏に過ごせる訳がない。

殺すのは得策ではないと思った矢先にこれだ。

怒り程やっかいなものはねぇ。

「おい、大丈夫か?」

俺は抜きとったナイフを上着で軽く拭ってポケットにしまい、左手に出来た直径3cm程度の穴から血が溢れだすチェシャ猫に、裂いたタオルを巻きつけて止血してやりながらチェシャ猫に声をかける。

視点を宙に泳がせていたチェシャ猫は俺の声を聞いて顔を俺の方に向け億劫そうに口を開いた。



「…はぁっ…俺……」

「苦しいのか?医務室に運んでやるから大人しくしてろ」

よくよく考えれば調子に乗って俺を怒らせたチェシャ猫の自業自得な事であり、いくら俺が完全なる殺人未遂をしてしまったとしても、別に俺がそこまで世話してやる必要はないとは思ったが、生きている以上チェシャ猫をこのまま放置って訳にも行かない。

この様子じゃチェシャ猫にアリスの森の囚人を連れ帰らせる事は無理そうだな。

まぁでもチェシャ猫のこの様子では外に出て人を殺し回れるとは思えねぇから最悪の事態は免れる。

さっさとこいつを医務室に送ってハイジ達を手伝ってやらねぇと。



そう思い行動に移そうとしたその矢先、チェシャ猫の体の下に腕を差し入れ抱きかかえようとする俺の首にチェシャ猫が両腕を絡めてきた。


「…どうしよう…」

どうしようの意味が分からず構える俺に、チェシャ猫は潤んだ瞳で俺を見つめる。

「…イッちゃった…」

色を含んだ切なげな表情と甘えが混ざった若干舌っ足らずの声でそう訴えるチェシャ猫の言葉の意味を俺は直ぐには理解が出来なかった。


理解した瞬間反射的にチェシャ猫の体から手を離そうとする俺をチェシャ猫は逃がさなかった。


チェシャ猫は初めて出会う目の前の未知の生物を呆然と見つめ言葉を失う俺に熱い視線を送ってくる。


「考え事しながらうっかり人を殺す奴何て俺初めて見たよお兄ちゃん」

どん引きしてしまい動けないでいる俺に、チェシャ猫は気にせず何かを期待しているような、艶めかしく熱っぽい視線を絡ませてきた。





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