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兄ちゃんが緊張してるのは猫さんが怖いからじゃない。
もしも猫さんが純粋に兄ちゃんを殺しにくるって言うんなら兄ちゃんはここまで緊張したりはしない。
兄ちゃんが嫌なのは猫さんの目的が殺し合いではなく、兄ちゃんにヤらしい事をしに来るって所。
兄ちゃんのトラウマがまさにそれだから兄ちゃんに取ってはかなり大変な事だと思う。
猫さんが男だって事だけが救いかも知れない。
もしも猫さんが女の人だったらそれこそ兄ちゃんに取っては発狂ものだ。
そんな事を考えながら最後の一冊を本棚に戻しているとシンに声をかけられた。
「チェシャ猫に殺される訳じゃねぇみてぇだし、チェシャ猫の性格がアレだから手を出せねぇって嘆いてる奴も大勢いるんだ。考えようによっちゃお前よりもハイジの方が大変なんじゃねぇの?」
シンは腕を組んで本棚に寄りかかって不思議そうに顔をしかめている。
目つきの悪い大きな目を兄ちゃんに向けるシンに兄ちゃんは困ったように眉を動かした。
「俺にとっては殺し合いの方が断然ましだ。だがお前が言う事は間違ってはいない」
兄ちゃんがそう言うとシンは考えるように目を泳がせた。
「ハイジ、ヤバくなったら叫べよ。絶対に助けに行く」
兄ちゃんはそう言って俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でるとゼロとベリーズの方へと戻って行った。
「…何つーかお前の兄貴を好きになれそうにねぇ」
ゼロとベリーズと何やら話をしている兄ちゃんを遠目で見ながらシンは渋い顔をする。
「その内絶対シンにも兄ちゃんの良さがわかるよ。けど良かったねシン」
「何がだよ?」
「兄ちゃんのシンに対する警戒心が薄くなってた。多分近くでシンを観察してシンが俺にとって危険じゃないってわかったんだね」
俺はシンの肩をポンポンと叩きながら何度も頷く。
「…嘘だろ?アイツと目が合う度に取って食われるんじゃないかって俺は危機感を抱くんだぜ?」
信じられないと言った顔で兄ちゃんを見つめるシンが面白くて俺は笑ってしまう。
「あはははっ大丈夫だよシン、さすがに兄ちゃんでもシンを食べたりはしないよ。食べるとしたら俺達3人がどこかに閉じ込められて、食べ物がなくてよっぽど危機迫ってる時だね」
「…リアル過ぎて笑えねぇよ。お前らとだけは絶対に遭難したくねぇ」
心底嫌そうにそう言うシンが面白くて俺は暫くの間笑いが止まらなかった。
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