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面倒くさそうに適当なフォローをしてくれるシンの声を左から右へと聞き流していると目の前が暗くなった。
「ハイジ、戻るぞ」
俺は暫くの間ショックで呆けていたが兄ちゃんの声で意識を取り戻す。
兄ちゃんが視線を下げてシンと俺を交互に見つめると、シンは居心地が悪そうな顔をして本棚に突き刺さったままのナイフを回収しに行く。
「兄ちゃん、もういいの?何かいい作戦思いついた?」
俺は立ち上がって自分の体を叩き埃をはらう。
兄ちゃんは俺の散らかした本を丁寧に本棚に戻していきながら俺の問いに眉を寄せた。
「いい案なんてもんはねぇ。どうしようが俺もお前も危険は避けられそうにねぇ」
「危険は避けられなくても乗り切る方法はあるんでしょ?俺は何をすればいいの?」
兄ちゃんの腕から本を取り出し本を戻すのを手伝いながらそう尋ねると、兄ちゃんは俺の顔を眼鏡越しにじっと見つめた。
兄ちゃんの綺麗な瞳の色は黄色いレンズで濁ってしまっていたけど、俺はレンズの向こう側の瞳の奥に隠されているものを知ってる。
ゼロやシンは俺の事を脳天気だと思ってるみたいだけどきっとその内わかってくれると思うんだ。
「俺がチェシャ猫と交渉してる間、お前がネバーランドを守れ。そして俺が戻るまで何とかもたせろ。出来るか?」
俺が出来ないって言えば、兄ちゃんはきっと俺の為に何かを切り捨てる。
それが何なのかはわからないけど、兄ちゃんは心の中の大事な部分が少し欠落してるからかなり容赦ない。
だから俺は兄ちゃんに甘えてばかりも居られないんだ。
兄ちゃんの足りない部分は俺が補わなければ。
兄ちゃんが少しでも光に近づけるように。
「何言ってんの兄ちゃん。俺に出来ない事何てねぇもん。ゼロとベリーズの事は俺が守るから兄ちゃんは兄ちゃんで頑張って。きっと俺より兄ちゃんの方が大変だと思うから」
俺がそう言うと兄ちゃんは静かにため息をついた。
「…もし俺に何かあったらエドアンの側にいてエドアンの指示に従え。いいな」
「…何弱気になってるのさ兄ちゃん。兄ちゃんなら絶対大丈夫だよ、俺が保証する!」
俺がそう言って励ますも兄ちゃんの眉間の皺は深くなるばかり。
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