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俺はシンとゼロの反応が不思議でたまらず静かに瞬きを繰り返す。

俺って変なのかなやっぱり。

ここでは空腹で苦しむ事もないし、寒さに震える事もない。

労働も楽しいし。今まで俺と同じ位の年の人達と接する機会がまったくなかったから、今こうしてゼロとシンと一緒に過ごせる事がすっごく刺激的だし楽しい。

何よりここには自由がある。

嫌な事は嫌って言えるし、好きな事が出来る。自分を自分で動かせるんだ。

こんなに充実した幸せな生活がおくれる所にいてどうして悲観的になれるって言うんだろう。

そんな事を心の中でぼんやりと考えていると、隣でシンが手元で遊ばせていたナイフを本棚の側面に投げつけた。

板にナイフが突き刺さる音が綺麗で、その余韻に浸っているとシンが険しい顔のまま気だるげに口を開いた。

「…ワンは相手が誰だろうと容赦なく向かってくる。精々奴の蹴りには気をつけるんだな、奴は靴に鉛を仕込んでやがるからまともに喰らうと立てなくなるぜ」

本棚に突き刺さったナイフを見つめながらそう言うシンに、俺は一瞬何の事かと思う。

さっき仲良よく話してたし、シンはワンワンに詳しいのかな。

「鉛かぁ。それは痛そうって言うか苦しそうだね。…でも何でそんな事を俺に教えてくれるの?」

素朴な疑問が浮かび上がり俺は率直にシンに質問する。

シンは俺の質問に露骨に顔をしかめてつり上がった大きな目を左右に激しく動かした。

「…お前がワンに負けるとお前に負けた俺の立場はどうなる?お前に負けられると俺の面目はまる潰れなんだよ。だから気を抜くなって言ってんだ」

あぁそっか、そう言う事か。

でも俺は確かに試合には勝ったけど、シンに勝ったって言うのはちょっと違う気がするなぁ。

正直新人歓迎パーティーのシンとの試合は物足りないまま終わったって言うか、試合になってなかったような気もするし。

俺は不機嫌そうな顔で奥歯を噛み締めるシンの肩に額をぐりぐりと押し付ける。

「落ち着いたらまた試合しようねシン、今度は素手でさぁ。そして負けた方が勝った方のお願いを1つだけきくの。楽しそうじゃない?」





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あきゅろす。
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