240 何か思案するように目を動かすベリーズを視界に入れながら、俺はベリーズに言われた言葉を頭の中で反復する。 チェシャ猫を理解する事は無理…か。 ハイジが俺の弟じゃなかったら俺もそう思ったのかもしれない。 ハイジの事を理解する為に俺は相当な時間と努力を費やした。 精神療養所にあったありとあらゆる精神分析の本を読みあさり、ハイジと毎日何時間も話をした。 最初の頃は理解出来ない事が多すぎて、ハイジの心の傷があまりにも深すぎて、正直ハイジを理解してやる事は無理だと思っていた。 だが、今では無理では無い事がわかった。 おそらくチェシャ猫を理解する事はハイジと同じ位に困難なんであろうが、根気よくやれば何かは掴めると俺は思っている。 まぁ…今現在そんな悠長な事を言っている余裕はない訳ではあるが。 今は今夜奴と2人きりになった際に最悪な展開にならないように回避する方法を見つけなければならない。 危ない集団を引き連れ個人的に守るものの無いチェシャ猫と、話を聞く限りまったく戦力になりそうにないネバーランドの囚人達を全員守らなければならない俺とでは立場が違い過ぎる。 本当に奴がさっき言っていたような事を俺に望んでいて、それを俺に強要してきたとして。 人質を取られている状態では俺は受け入れざるを得ない。 …だがそれは出来ない。 チェシャ猫の機嫌を悪くさせずに、寧ろチェシャ猫の機嫌を良くしてアリスの森の囚人達を引き上げさせるいい手は無いだろうか。 本のページを進めながら真剣に考えを巡らせていると、黙り込んでいたベリーズが口を開いた。 「…ラクハさんってネガティブ何だがポジティブなんだがわからない人ですね。あのチェシャ猫が夜這いに来るって言うのにそんな勝ち気な発言、僕には絶対に言えません」 ベリーズは感心したようにそう言うと、テーブルの上に積み上げている本の山から一冊抜き取り目を通し始めた。 「開き直ってるってのもあるが、勝ち目が無いと思ってる時点で負けなんだよ。だから俺は負ける事は考えないようにしてる」 「ですが負ける事だって当然ありますよね?その場合はどうするんですか?」 「精一杯やって駄目なら仕方ねぇだろ。そう言う運命なんだ、諦めろ」 ベリーズの質問に投げやりにそう答えると、ベリーズは可笑しそうにやっぱりラクハさんは間違いなくネガティブですね、と明るい笑みをこぼした。 BackNext [戻る] |