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図書室は本館四階の最奥に設けられていた。

ブロンズ製の自動で開く無駄に頑丈な扉を開き中へと入ると、そこには無駄なく収納された膨大な量の書物が壁を覆う空間があった。

広いスペースに効率よく配置された閲覧スペースも、利用者が俺達以外に1人も居ない為完全に無駄で終わっている。

エドアンが不在だと言う事で今日は特別なのかも知れないが、全く動かされた気配の無い本の列を見る限り普段も利用者は少ないのかも知れない。

俺は直ぐに目的の本を探し出すと閲覧スペースへ移動しテーブルにつき本をめくる。

さっきのやり取りでわかった事だが、ノアの箱船で権力のあるシン・アベルと互角でやり合っていると言う事は、ワンもアリスの森の中で権力を持っている奴だと捉えていいだろう。

チェシャ猫を相手にしている間、俺は加勢する事が出来ない。

かと言ってチェシャ猫を野放しにしておく訳にもいかねぇ。

それこそ大問題だ。最悪何人死人が出るのか。

そんな奴と2人きりでどうしろって言うんだよ。

…マジで勘弁してくれ、いくらハイジや他の奴らを守る為だと言っても出来る事と出来ない事がある。

「…“マゾヒストとは”、“マゾヒストとの正しい付き合い方”?またコアなもの読んでるんですね」

本を開いたまま頭を悩ませているとベリーズが隣に腰をおろし、俺の手元を覗き込んできた。

「敵と戦う前に敵を知り、理解するべきだと思ってな」

簡単に本に目を通していきながらそう返すとベリーズは曖昧な相づちをうった。

「…こんな事言うのもどうかと思うんですが、無理なんじゃないんでしょうか」

「何がだ」

思い詰めたような声を出すベリーズに、本から目を離しベリーズの方を見る。

「…チェシャ猫を理解する事も攻略する事もです」

諦めの混ざった瞳で俺を見つめ弱音を吐くベリーズに、俺は再び視線を本へと戻した。

「無理だと思ってる限りは無理だろうな」

「それは僕達に全く勝ち目が無いって事ですか?」

「そう思いたいなら好きに解釈しろ。お前はどうだか知らねぇが、少なくとも俺はエドアンの居ないこの2日間で死ぬつもりはねぇ。そして五体満足でお前らをエドアンの元に帰してやるつもりだ」

縋るような瞳で俺を見つめてくるベリーズにそう返すと、ベリーズは押し黙ってしまった。



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