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「…いやいや、冷静過ぎだろ。もっと焦るとかねぇのかよ」
俺とゼロのやり取りを見て、シン・アベルは露骨に顔をひきつらせる。
…これでも十分焦ってるんだけどな。
「っはー…、こればっかりは慣れねぇよなぁ」
そうぼやいて血まみれの囚人服を大事そうに胸に抱き、ずるずるとしゃがみ込むワンに違和感を覚える。
「お前、俺達とチェシャ猫の前では態度がまるで違わないか?」
疑問に思いそう口にすると、ワンは俺がそんな質問をする事自体があり得ないと言った顔で俺を見つめてくる。
「ロゼさんをお前らと一緒の扱いにするなんてあり得ねぇだろ。あの方は神だぞ?神に楯突く奴がどこにいる?」
…奴が神なのか。
道理で俺には災難しか降りかからねぇ訳だ。
妙な納得を覚えつつ、俺はどうやってアリスの森の囚人達からの襲撃を乗り切るかを考える。
「しっかしまぁ、どう言う育ち方したらロゼさんにあんな真似出来るんだ?…シンが慎重になってんの、少しわかってきたぜ。見かけに反してトリッキーな野郎だなお前」
床にしゃがみ込んだままハイジを見つめ、口元に笑みを浮かべるワンにハイジは手を差し出す。
「俺何か間違った事したかな…?」
不思議そうな顔をしながらワンが立ち上がるのに手を貸すハイジに、ワンは嬉しそうに短い笑みをこぼした。
「今夜お前とやり合うの、楽しみにしてるぜ。俺はシンのように甘くねぇから」
ハイジの頭をぐしゃぐしゃと撫で、不適な笑みを浮かべるワンをシン・アベルは鼻で笑う。
「どっちが勝とうが最後に勝つのはこの俺だ」
「えらく強気じゃねぇかシン。俺に勝った事あったかぁ?」
「てめぇも俺に勝った事ねぇじゃねぇか。精々殺されねぇ事だな」
興味なさ気にそう告げるシン・アベルに宣戦布告するように、ワンは右手の中指を立て威嚇するとチェシャ猫の後を追うように階段を降りて行った。
「ワンと仲がいいのか?」
ワンの降りて行った階段の先を見つめるシン・アベルにそう尋ねると鼻で笑われた。
「それは冗談か?違うエリア同士でんな事ある訳ねぇだろ。ウチとアリスの森が衝突すると俺の相手がいつもアイツだってだけだ」
シン・アベルは面倒くさそうにそう言うと、再び図書室に向かうべく足を動かし始めた。
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