236 チェシャ猫は俺の耳元でそう告げ俺の肩をポンポンと数回叩いた。 …こいつに期待した俺が馬鹿だった。 いや、何かに期待する事がそもそもの間違いなのか。 「…わざわざ襲撃予告をして貰えるとは思わなかったぜ。だが、そんな事を言われて俺がおとなしく待っていると思うか?」 俺がそう言うとチェシャ猫は眉をひそめ、俺の頬をツンツンと指でつついていた手の動きを止める。 「…襲撃、ね。まぁ結果としてはそうなっちゃうかも知れねぇけどさぁ」 呆れたようにそうぼやくチェシャ猫を不思議に思っていると背中から声が聞こえてきた。 「違いますよラクハさん。今のはネバーランドの囚人に向けられた言葉じゃなくて、ラクハさんだけに向けられた言葉なんですよ。チェシャ猫さんの言う夜這いと言うのは殺しに来るって言う意味ではなく、何と言いますか…」 「つまりはお前にエッロイ事をしに行くって事」 ベリーズの解説に続くようにそう言ってのけるチェシャ猫に俺は絶句してしまう。 「…もの好きな奴だな」 リアクションに困惑しながら何とかそう口にする俺をチェシャ猫は面白そうに笑った。 チェシャ猫は俺の後ろで様子を窺っているベリーズを覗き込み、ウィンクを飛ばす。 「通訳ありがとうおチビさん」 「いえいえ、とんでもないです」 ベリーズは謙遜した物言いでチェシャ猫に簡単に言葉を返すと、再び俺の背中に身を隠した。 チェシャ猫は茫然としている俺をよそに話を続ける。 「逃げようが隠れようがお兄ちゃんの自由。俺、鬼ごっこもかくれんぼも大好きだから問題ねぇよ。まぁでも…被害を最小限にしたいのなら逃げない方がいいかもねぇ?」 チェシャ猫のその言葉で嫌でも逃げずに待っていなければならないらしい事がわかる。 チェシャ猫は脱いだ上着を壁に背中を預けて顔を強ばらせているワンの方に投げると、唸りながら大きく伸びをした。 「それ綺麗にしといてワンワン。それから他のみんなに今晩ネバーランドに行くから一緒に来たかったら消灯時間までに戻ってくるように伝えてあげて」 チェシャ猫がそう告げると、恐怖に引きつっていたワンの表情が変わった。 BackNext [戻る] |